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『ハッピー・マニア』
シアワセを探し続ける、イタい女の恋愛道中記

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2013年現在という視座を持った場合、日本の1990年代の文化というのが、いかに人の内面をえぐったりあばいたりすることに特化したものだったかと思い知らされる。1995年から2001年にかけて連載されていたレディース・コミックス『ハッピー・マニア』(著:安野モヨコ)を読んでみると、それがよく分かるだろう。

主人公は重田加代子という20代女性・独身。家族のもとから自立し、友人女性「フクちゃん」と同居し働きながら暮らしている、細身で可愛らしい、どこにでもいるタイプの女性だ。そんな彼女は「恋人がいること=幸福」と信じて、恋人を探す形で数々の男と結ばれてゆく。

とにかく、無節操という言葉を通り越して暴走気味といえる程に、トキメキを感じた男と寝ては別れて、を繰り返してゆく。つまるところ、彼女にとっての幸せは愛することや愛されることなどではなく、「発情の微熱=トキメキ」を感じていることなのである。そのためなら、同僚の女性の彼氏を寝取ることも、既婚者との不倫行為もいとわない。

この作品は連載時(1990年代後半)にすこぶる好評を博し、1998年にはテレビ・ドラマ化もされた。それは、単純に主人公が奔放であったからというだけではないだろう。恐らくは、女の内面を極端な形でフィーチャーした作風が、1990年代という時代にマッチしていたのだ。


日本における一般的な女性の幸せは、半ば定義として存在し続けている。しかし、実際に人が「満ち足りる」ということはそうそうない。それを感じたとしてもほんの一瞬の事で、飢餓感と焦燥感がその後には訪れる。その繰り返しの中で、人はある程度の諦観を必要とする、即ち、「何もかもは手に入らない」と自分に言い聞かせるわけだ。しかし、重田はそれをしない。その生き様には、ある種のカタルシスをも感じさせるものがあるのだ。

作中で「女たらしにたらされた時の気分の良さ」というものを女性が言及するが、それも女性の、定義として存在する「建前の幸せ」と対極にはあるものの、真実の感情なのだろう。女性が「女性の心」を観るのに、そして男性が女心の一端を垣間見るのに、2013年現在でもこの作品は、有意義な作品であることは確かだ。


作品情報

・作者:安野モヨコ
・出版:祥伝社
・連載期間:1995年7月~2001年7月








 

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