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『蟹工船』
小林多喜二による、無上のプロレタリア文学

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「プロレタリア文学」と言う文学ジャンルがある。およそ1920年代の日本において流行したもので、資本主義や個人主義ではなく、社会主義や共産主義をベースとした無産階級のための文学である。もともとは大正デモクラシーに端を発しており、労働者や軍隊の悲惨さをメインテーマとして描いているのが特徴だ。海外では「革命文学」とも言われるジャンルである。


『蟹工船』
新潮文庫
定価:税込420円
それが好ましいかどうかは個々に委ねるとして、とにかくプロレタリア文学が日本文学のひとつの潮流を作り上げたのは事実。そのプロレタリア文学の代表作でもあり、近年「共産党員の増加にも関係あるのでは」とまで評されるほど再評価を受けているのが、小説家・小林多喜二の『蟹工船』(1929)だ。

物語は「おい地獄さ行ぐんだで!」という一言から始まる。タラバガニの北洋漁業に出航する蟹工船。そこへ乗り込む出稼ぎ労働者たち。船という空間は労働法域外であるために、労働者たちは過酷な労働を来る日も来る日も強いられる。労働者たちは資本(監督)側に対して徐々に権利意識を持ち、ストライキを企てるが・・・というのが、話の大まかなあらすじになる。

資本家と労働者の対立というテーマは、現代の日本においてもまったく風化は見られない。むしろ、向き合って対立する気力・体力も削がれるほど働き詰めねばならない現代社会の中では、より切実なテーマになっているとも言える。勝利は、幸福は、どのようにして成立し得るのか、だ。

特定の主人公がいないため、読者は感情移入しがたいかも知れない。しかし、そのライブ感溢れる描出と展開には、著者の若き血潮が丹念に込められており、読む者の心を巻き込む。ために、現在でも国際的評価の高い作品であるのだ。イズムではない。小説として魅力的なのだ。

ちなみに小林多喜二は、当時の危険思想取締りという風潮の中、逮捕・拷問の末に、1933年、僅か29歳で亡くなったと伝えられている。まだ100年も経っていない昔のことである。


作品情報

・作者:小林多喜二
・出版:全日本無産者芸術連盟(1929年)

・『蟹工船』(青空文庫)







 

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