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『たけくらべ』
女流作家・樋口一葉が美しく切り取った、男女の心の変遷

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モテない男の盛り場といえば、そう、ソープランド。一昨年(2011年)の時点で日本には1246ものソープランドがあったらしいのですが(平成24年度警察白書より)、日本随一のソープ街といえば、何を置いても「吉原炎上」でも有名な東京の吉原でしょう。江戸の昔より遊郭街として名を馳せた、歴史ある街です。

江戸時代、多くの民が出稼ぎに江戸(今の東京)に来ました。しかもそれらはほぼ男性だったため、江戸に住まう人の男女比は2:1とも3:1とも伝えられています(当然、多い方が男性です)。そこで、性犯罪防止の観点から、お上公認の遊郭というのが栄えるようになりました。


『たけくらべ』
河出文庫
定価:税込788円
しかし現在と江戸・明治時代の頃とで吉原の事情が違うのは、人身売買としての実態を持っていたか否かでしょう。古くは金銭の前貸しなどで女性を束縛し、遊女として勤務させていた例が目立ちましたが、現在ではアルバイト感覚で働く女性が多いといいます。長引く不況のためか、性産業も供給過多のようですから、割には合わないかも知れませんが。

おっと、このままでは日本のソープ今昔事情の講義になってしまいますね。で、そんな江戸・明治頃の吉原の事情を鑑みて読むと楽しい小説が、『たけくらべ』というわけです。ご存知、現在の五千円札・樋口一葉が明治中期に発表した、子供から大人へ移り変わる時期の男女の心模様を描いた短編小説です。

遊女になる定めのオテンバ娘・美登利(14)と、僧侶になる定めの15歳の少年・信如、そして13歳の少年・正太郎がいました。今で言う女ガキ大将と、その友達っていう感じでしょうか、とにかくオシャマで憎まれ口を叩くわ、男連中に物怖じしないわ、っていう子なのです、美登利は。

誰でも経験があると思いますが、異性の友達を今までのように見れなくなっちゃって、疎遠になってしまうんですよね、この年頃って。それと同時に自分の肉体・精神の変化にも戸惑うものです。

樋口一葉は『たけくらべ』発表の翌年、24歳の若さでこの世を去りました。物語は古文形式ですが、若き男女の「心の変遷」を、品格と奥ゆかしさを以て、実に清々しく描いています。遊女になる定めの少女にとって「大人になる」こととは。少年が「子供」から「大人」へ変わることとは。古くて新しい、永遠の命題「時間」。その刹那、樋口一葉が捉えた「心」は、今でも鮮やかに透き通っているようです。私たち読み手の心を映しながら。


作品情報

・作者:樋口一葉
・出版:文学界雑誌社、博文館(1895年)

・『たけくらべ』(青空文庫)







 

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