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『獄門島』
日本の推理小説の至りに、金田一耕助を見ゆ

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かの有名なシャーロック・ホームズを筆頭に、これまでに洋の東西を問わず、様々な名探偵が推理小説の中で描かされてきました。もちろん日本でも。さて、その中でも群を抜いた存在といえば? そう、小説家・横溝正史が生み出した金田一耕助こそ、日本の名探偵の代名詞といえましょう。

言語学者・金田一京助から拝借したというそのユニークな名前は、一度で覚えてしまうほどインパクト大ですが、描写されるその風貌もかなりのもの。シワだらけのボロ着物、手入れの悪そうなボサボサのヘアスタイル、本人も劣等感を抱くほど貧相な体格。しかし、その外見ゆえに相手は油断してしまい、彼も探偵として活動しやすくなるわけですが。


『獄門島』
角川文庫
定価:税込580円
彼は横溝の初の長編作品『本陣殺人事件』にて初登場します。作者自身も試験作と語っただけあり、「この作品の金田一こそ金田一」と言えるほどの固まり感はありません。むしろ、それが如実に表現され、金田一を名探偵の代名詞に仕立て上げたのは第2作目『獄門島』(1947)でしょう。作者自身「私がはじめから自信をもって着手したのは、『獄門島』以降」と語っていましたから。

終戦の翌年、私立探偵・金田一は死んだ戦友の手紙を遺族へ届けるため、瀬戸内海に浮かぶ孤島・獄門島へ向かいました。もう字面からして、島の名前には見え透いた禍々しさを感じますが、その地名に相応しい禍々しい殺人事件が島では起こります。金田一は死んだ戦友の遺した言葉、そして殺人事件をクリアーなものにすべく、その謎に挑みます。

ミステリーもさながら、ストーリーテリングの部分も含めて日本語の妙を思い知らされる小説でもあり、今もなお推理小説ファンの間で根強い人気を誇っています。また、金田一が生涯愛したとされる女性も登場するなど、金田一を知ろうとする者にとって極めて高い重要性を持つ作品でもあります。

ちなみに有名な「祟りじゃ!」のフレーズは、同じ金田一耕助シリーズの第4作『八つ墓村』からのもので、本作とは関係ありません。


作品情報

・作者:横溝正史
・出版:岩谷書店(1947年)







 

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