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『暗殺教室』
良識の裏をかいた、鮮やかなギャグまんが

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よく教師が主人公のお話があります。元暴走族のティーチャーだとか、熱血新米教師のお話だとか、美人女教師と出来の悪い男子生徒とのラブ・ロマンスだとか、ベタと言えばベタな、と言いたくなるほど、そのテンプレートは豊富な量をほこります。

物語の主軸を、日常を映した生活ドラマとするか、主人公の成長モノとするか、また、PTAや教育委員会などを巻き込んだ泥沼活劇にするかは、それぞれの漫画家や編集部の方針によりますが、これほど、どのテンプレートにも、どの方針にも属さない珍しいマンガはないのではないでしょうか。松井優征の描く『暗殺教室』のことです。

舞台は、進学校である、とある中学校。三年E組の生徒たちは、E組担任教師(男性)を、誰にも知られずに殺そうと目論みます。と、これだけだと、眉をしかめる人達がいるかも知れません。そして、このマンガの矛先、その最たるものは、実はその「自分の中にある良識しか信じない人達」であるともとれますが、それはなぜか。

まずあらかじめ知っておいて頂きたいのは、『暗殺教室』はギャグまんがである、ということです。設定自体はエキセントリックかつ大胆不敵なものですが、「なぜ生徒たちは、先生を暗殺しようとするのか」、物語中明らかになります。当然といえば当然ですが、で、その後はスムーズに楽しめるかと思います。

「おいおい、暗殺をギャグだなんて、物騒なこと言うなよ。アタマおかしいんじゃねーの」良識大好き人間が考えそうな突っ込みです。ギャグというのは、たとえば漫才で突っ込みがボケの頭を叩いたり、胸を手ではたいたりするように、ある種のヴァイオレンスを常に帯びているのです。言い換えれば、残酷さから遠く離れたギャグなどは無い、ということ。良識だけでは計れないことが世の中にはある、その訓示が笑いの中にこっそり忍ばされているのです。

劇中のセリフを拝借すれば、「他人に胸を張れる暗殺」、そのために生徒たちは努力します。作者の松井は以前「ベタ(王道)が大好きなんです(中略)トリッキーなことをやるのは、あくまでそのベタを光らせるため」と語っていましたから、読み終わった後には、どういうわけかカタルシスと興奮が残ります。それは、良識ゆえの盲目の裏をかいた、鮮やかなギャグまんがとしての『暗殺教室』、そのクオリティの高さを物語っているともいえましょう。




※発言は「ジャンプスクエア 松井優征先生 インタビュー 完全版」より・2014年5月28日閲覧


作品情報

・作者:松井優征
・出版:集英社
・連載期間:2012年7月~現在連載中





 

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