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『けっこう仮面』
少女漫画でこういう主人公はありえるだろうか?

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少年漫画と少女漫画(レディース・コミック)を比べてみると、分かる違いがいくつかある。その一つが「女の裸」に対する関心の度合いである。男は当然(と言っていいだろう)女の裸が好きで、少年漫画の場合、作者も読者も男性であることが多いから、そこでは「女の裸をどう描くか」がとても重要になる━━たぶん。翻って少女漫画の場合、作者も読者も多くは女である。だからなのか、少女漫画にも「女の裸」は出てくるのだが、そのタッチは、往々にして無骨で、色っぽさや艶めかしさに欠ける。女にとって「女の裸」は自分の裸体でしかないようなものだから、女体を色っぽく描写する必然が特にないのかもしれない。つまり少女漫画では「女の裸」は概してそう重要視されない。

ということは? こういうことである。漫画家の永井豪が一九七四年から七八年にかけて『月刊少年ジャンプ』上で断続的に連載したギャグ漫画『けっこう仮面』は、少女漫画というフィールドでは到底描かれなかったものなんだろうな、と。

どういうことか。この漫画の主役は、ナイスバディな全裸の女性なのである。覆面で顔を隠した「けっこう仮面」という女が全裸で活躍して、学園に蔓延る悪を成敗する。本作が連載された七〇年代当時であれば、これは「月光仮面」のパロディーとして通用した。

一九六〇年前後に一世を風靡した、正体不明のヒーロー月光仮面。しかし本作が連載された七〇年代以降に生まれた世代は、多くの場合、そもそも月光仮面を知らない。そうすると本作は、もはやパロディーではなく、一つの独立した作品として見られるケースが多いだろうということである。

月光仮面は、顔を覆面で隠してこそいたが、服はしっかり着ていた。着ていなかったら変質者でしかない。けっこう仮面が、月光仮面への(セクシー要素を含んだ)カウンターであることは、七〇年代当時であれば、想像に難くないと思う。しかし、月光仮面に馴染みがない世代には、彼女が全裸である必然が、そもそもよく分からない。だからか、この作品は短命に終わり、フォロワーも一向に現れない。

少年漫画にしろ少女漫画にしろ、女が素っ裸で登場する以上、何らかの必然がある。シャワーを浴びているとか、ヌードデッサンのモデルをしているとか、水着に着替えているとか、セックスをしているとか、家では全裸でいる趣味があるとか。女の裸を描くなら、裸である必然をしっかり考え出す。それが作者や編集者の仕事であったりもする。ところがけっこう仮面には裸である必然が━━少なくとも読者を納得させるだけの必然が━━特にない。彼女が繰り出す必殺技は、セクシーなギャグではあっても、それ以上のものにはならないのである。

少女漫画でこういう主人公はありえるだろうか? 女性が悪を成敗する結構の話は、十分にありえるだろう。セーラームーンなどはそういう話であろうし。でもその「正義の味方」を全裸にする設定は、恐らくありえない。まず現実的に防御体制として全裸というのは脆弱極まりないから、問題外である。少女漫画の読者の多くは女性で、女性は自分を飾ってくれる衣服や宝飾品には興味を示しても、一糸纏わない姿にはあまり関心を寄せないだろうし。必然性が特になくて読者の人気も見込めないとなれば、誰もそんな設定にGOサインを出しはしないだろう。

加えて、私はこうも思う。男だって「女の裸」に興奮はするけど、その興奮が長続きするケースはそんなにないんじゃないかな、と。

男はポルノグラフィーとして女の裸を求める。でも男が女の裸に興奮しても、それは一時的なもので終わることが多いらしい。個人的には「そうかな?」と訝るのだが、たとえばヌーディスト・ビーチで興奮しっぱなしの男など、そうはいないというのが定説である。女の裸は、たまに見るとエキサイトするが、見続けていると、それはそれで「どうってことないもの」になったりもする。そういう傾向が男には多く見られるのではなかろうか。

けっこう仮面は、まぎれもなくセクシーな要素を含んでいる。でも彼女が男にとって悩ましいほどセクシーなキャラクターかというと、そんなことはない。毎度毎度ヌードであり続ける彼女は、平気で「ギャグ」になるような、至って「どうってことないもの」であったりもするのである。

男の多くは女の裸に興奮はしても、長続きしない。だから本作は長期連載には至らなかった。女は(私は男なので推測でしかないのだが)そもそも男の裸にあまり興奮することがない。つまり裸とは、それ自体はそんなに特別なものと言えないのである。本作が遂行的に語ることは、実はこれではないかと思っている。

作品情報

・作者:永井豪とダイナミックプロ
・発行:集英社





 

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