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『記憶破断者』
小林泰三の異色サスペンス

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SFホラー作家、小林泰三が2015年に上梓した異色のサスペンス小説、それが『記憶破断者』である。小林泰三といえば『アリス殺し』や『玩具修理者』などで有名な作家だが、作品の出来にばらつきがあることにも定評がある。しかし今作はお薦めできる佳作の部類に入るのではなかろうか。


『記憶破断者』はいかに異色なのか。あらすじはこうだ。二吉は見覚えのない部屋で目覚めた。ここで足にチェーンでも掛けられていれば『SAW』になってしまうが、目の前にあったのはチェーンではなく一冊のノートだった。ノートには殺したい人間の名前が書いてあり、なんてこともなくて、そこには自分が前向性健忘症であること、つまり自分の記憶は数十分しか保持され得ない旨が記されていた。

そのノートには、驚くべき事実がもうひとつ、つづられていた。二吉は現在、殺人鬼と交戦中であるということだ。殺人鬼の名は雲英光男。手で相手に触れるだけで相手の記憶を改ざんできる超能力の持ち主だという。当然だが、周囲は殺人鬼の特殊能力に気づかない。記憶のない男と、他人の記憶を自在に操る殺人鬼との対決が、物語の主軸である。

何しろ主人公の頼みの綱はノート一冊。記憶がしょっちゅうなくなるものだから、その都度ノートを確認するという、同じことを繰り返しているもどかしさ。しかし確実に殺人鬼を追いつめてゆく。そしてラストに至るわけだが、最後の一行と同じ文章は、実は作中に出てきていて・・・

殺人、暴行、強姦など、小林泰三の作品にはお馴染みのブラックなテイストやヴァイオレンスもたっぷりある。「そんなん苦手です」と、のたまう方はやめておいた方が吉か。裏を返せば、そういった要素にある程度、耐性のある方には、異色のサスペンスとして一読の価値ありとお薦めさせて頂く。


作品情報

・作者: 小林泰三
・発行: 幻冬舎(2015年)





 

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