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■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







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■ 今回はその『双亡亭壊すべし』の第一話についてのみ伺いたいと思います。WEB上で無料公開されていますし、まだお話自体は完結していませんからね。



(C)藤田和日郎/小学館
『双亡亭壊すべし』第一巻 表紙
F: このインタビューの公開はいつですか? 来年の1月? まぁまだ全然終わっていませんわな。(インタビュー収録は2016年の秋)


■ 少年マンガの第一話って、客寄せじゃないといけないと思うんです。「今作の主人公はこんなやつですよ」、「こいつはこんなふうに活躍していきますよ、面白そうでしょう?」と説明しつつ、読者をワクワクさせないと、その先を読んでもらえない。でも『双亡亭』は、第一話だけだと、まず主人公が誰か分からないじゃないですか。これはアリなのか? と。

F: そうですね。総理大臣が双亡亭を訪れた昔の思い出からはじまり、自衛隊が出てきて、絵描きの凧葉が出てきて、双亡亭に越してきた緑朗は、凧葉と知り合った後、父親が双亡亭に食べられたと言って狂っちゃうし、古い飛行機が出てきて、その中に化け物とそれを撃退する少年が出てくるし、最後は紅という女の子が出てくる。いろいろ出てきますね。


■ あれって事件を並べているだけ、説明しているだけで、物語として機能していないのではないかと思います。「何じゃこりゃ」と思った人は、結構いるのではないかと。そのあたり、いかがお考えですか?


(C)藤田和日郎/小学館
『双亡亭壊すべし』第一話より
F: 確かにいろいろ出てきましたけど、そのキャラクターたちは皆、双亡亭という建物に向かっていますよね? つまり彼らはバラバラに見えたかもしれませんが、「双亡亭」というキーワードでくくられる。第一話では、まず双亡亭とはどんな建物なのかを読者に見せたかったんです。人を食べちゃうらしい、人の恨みをたくさん買っている、自衛隊の空爆でもビクともしない建物。これを壊すにはどうしようか。その辺をまずは提示するべきだと思いました。

さっきスピード感を云々しましたけど、だからってチャカチャカした物語ではなくて、舞台やキャラクターが読者にきちんと伝わっていないといけません。週刊誌だからって毎週見せ場というのではなくて、ある程度、押しと引きがある。おれが好きなホラー小説がそうなんですけどね。だから第一話においては、まず双亡亭を印象づけた方が良いと判断しました。


■ 少なくとも第一話においては、人ではなく建物が主人公だと?


(C)藤田和日郎/小学館
『双亡亭壊すべし』第一話より

F: 絵描きの凧葉にはかなりのページを割きましたから、第一話だけ見たら、なんとなくあいつが主人公に見えませんか? 確かに冴えない、何の特殊能力もない、腕っぷしもないですから、少年マンガの主人公っぽくはありません。そんなフツーな彼ですから、周りでわけのわからない事件が続発しても、彼は何もできずに戸惑うだけです。だから読者に一番近い存在だと思っています。


(C)藤田和日郎/小学館
『双亡亭壊すべし』第一話より

■ 凧葉の心情が読者にもあてはまると。じゃあ私みたいに「何じゃこりゃ」と戸惑った人がいることは、あの第一話の狙い通りなんですね。

F: あの第一話は、双亡亭にまつわるいろんな人たちを少しずつ見せていく感じですから、映画で言うと予告編みたいなものかもしれません。

ただ「何じゃこりゃ」の次に「もう読まねぇよ」と思われたら、そこで終わりですから、建物をキャラ立ちさせたり、凧葉のようなフツーの人ばかり登場させたりしても、それだけだと物足りないと思いました。だから強そうなヤツも出て来るし、ホラーだけど静かなシーンばかりじゃありません、ちゃんと派手なシーンもありますよ、というところは見せておきたかった。


■ のっけから空自による派手な空爆ですからね。

F: ああいうの、やっぱり描きたいんですよ。おれが欲っしているものなんです。ただ第一話は、おれも迷いましたよ。実際に雑誌で連載がはじまるまで、何話分か描きだめをしますが、そこに読者の反応は当然ありませんから、担当編集さんに何度も確認しました。こんな地味なオープニングで、読者はついて来てくれるのか。もっと分かりやすい、強烈なキャラクターを活躍させた方が読者には喜ばれるのではないか? と。担当編集さんからも「大丈夫です」と言って頂けたし、読者からの反応もおおむね好評でしたから、あぁ良かったと思いました。




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