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■ 2月29日から3月30日にかけて、文房具をフィーチャーいたします。







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■ 続いて、ポップ・ミュージック界の音の変遷について伺います。小泉さんがエンジニアになられてしばらくした頃、つまり90年代に入って、ポップス業界はミリオン・ヒットが多発したバブル期を迎えるわけですけど、この頃ってCDの音圧というかレベルがどんどん上がって行きましたよね?

K: そうですね、「レベル戦争」って言い方をするんですけど、大体ああなり始めたきっかけは洋楽で、メタリカなんじゃないかという説もありますけど、私の周りではレディオヘッドでしたね。音でかいんだよね、っていう騒ぎになって。私も聴いた時は、でかいなと思いました。色んな人のCDを掛けていて、ひとつでかい音があったら、リスナーにとって印象的というか、キタ━(゜∀゜)━!ってなるじゃないですか。反対に音が小さいと、しょぼい、イケてないと捉えられて、いくら音楽的に良くても売れなくなっちゃう・・・だから、(音圧の上げっこになりそうで)やばくなってくるんじゃないかな、とも思いました。


■ でかい音って音が割れたりしているイメージがありますけど、良い音とでかい音って共存できるものですか?

K: 曲調にもよります。抑揚のある、例えばクラシックだと、レベルを上げまくったでかい音にするのは、クレッシェンドからピアニッシモまで、音楽の記号なんてなくなってしまうから、絶対ムリなわけで(笑)。クラシックはムリ、でもポップスやロックはそういうわけにはいかなくて。抑揚のある曲はブワーッと上がった所にピークが来るので、その前後は落ちてないとおかしいですよね。ミキサーさんがそこを良い具合にやってくれると、音が大きく抑揚もある仕上がりになりますけど、そこが上手くいってないと・・・。でもエンジニアでみんな共通しているのは、イヤなモノは作りたくないんですよ(笑)。


■ はい(笑)。そのレベル戦争って、いつ頃終戦を迎えた感じですか?

K: 今はハイレゾっていうものが出て来たので、少し落ち着いていますけど、つい最近まで大きい人は大きかったですね。「いい加減にもうやめよう」と云う人が出て来たのが・・・3年前(2011年)くらいですね。


■ 小泉さんご自身は、そのレベル戦争の真っただ中にて、どうでした?

K: 爆音でガーッと聴くジャンルの音楽は別ですけど、奥行きとか全部無しにして、レベルだけ上げて(音像が)壁になっちゃうような音楽は、音楽的にちょっと・・・ヘンなので(笑)。綺麗なバラードなのにガーッと高圧的に来られてもヘンじゃないですか。だからワビサビはありつつ、あまり潰れない感じでいかに大きく聴こえさせるようにするのかを心がけていました。それもマスタリングのテクニックのうちなので。もちろん、アーティストやレコード会社が望む方向性に添う形で、ですけど。


■ 空間を生かしつつ、要望にも応えつつ・・・と。小泉さんがマスタリング業界に入られてから、やり方や手順にそんなに劇的な変化はないですか?

K: うーん・・・工場に納品するのが、今はファイル(電子データ)ですけど、昔はテープだったんですね、この、ビデオ・テープのオバケみたいな(笑)。3/4インチなので日本では「シブサン」と呼ばれているんですけど、CDが出て来た時、CDの膨大なデジタル・データをどこに録音するんだ、となって、映像の世界で引退する寸前だったコレに目を付けた、という。今はもう工場が受け入れてないですけど。




■ やっぱりもうファイルの時代なんですね。今って大半の消費者も音楽をファイルで扱いますけど、WAVファイルとかだとCDと音が同じと云いますもんね・・・

K: 基本は違います(笑)。CDっていうのは、PCM(パルス符号変調)で成り立っているので、フォーマットが違うと過程も違うわけです。WAVとかAIFがありますけど、CDからこの2つに録音したら、やっぱりそれぞれ音のバランスがちょっと違います。だから本当は、CDを買ったらCDで聴いて欲しいんですよ(笑)。


■ CDで聴く用に作っているわけですもんね(笑)。最近のファイル文化では、先ほどおっしゃられたハイレゾが台頭してきていますが・・・?