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■ 2月29日から3月30日にかけて、文房具をフィーチャーいたします。







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■ こちらでは、国内の小規模なメーカーや作家さんとコラボレーションして、様々なジャンルの雑貨を手掛けておられますよね。今だとインターネットの普及もあって、いろんな種類のモノが、海外製品との競争を強いられるじゃないですか。その中にあって、日本での小規模なモノ作りの意義って、どうお考えでしょう?

T: 消費者の大半は値段の割に良いモノ、つまりコスト・パフォーマンスの優れたモノを欲しがりますから、その傾向自体はどうしようもないですよね。値段と質のバランスに価値を置くなら、ファーストリテイリングの「ユニクロ」を見ても明らかなように、海外で作る低価格路線が正解でしょう。あれは日本のブランドですけど、日本では作ってはいないでしょう?


■ ないですね。しかも中国でもベトナムでも、技術力が上がってくれば品質も上がるわけで・・・

T: 消費者ということで言えば、大多数はそれを求めている、そのこと自体はどうしようもないんです。でも値段も大事だけど、それよりも商品の背景、作り手やブランドの感性に共感してくれる、心が惹かれるという人たちも、数こそ少ないかも知れませんが、確かに存在するんです。



■ 少数派に向けて、と?

T: 全部が全部、多数派に合わせたらどうなるか。印刷の分野で言いますと、統廃合が重なっていきました。出版不況も相まってなんですが、廃業したり、大きい会社に吸収合併されたりする会社が増えましたよね。


■ 工業統計表に基づくデータによると、印刷産業全体の事業所数は、1998年には43,693事業所ありましたが、2010年には29,179。つまり3割以上減りましたからね。

T: それでどうなるかと言うと、以前だと小さい会社が細々と作っていた紙は、そこが廃業したり大きい会社に吸収されたりした途端に生産されなくなる。その紙質が良くて、ファンが多少はいたとしても、無くなって、二度と作られない。それが重なるんです。そうなると、画一化した、面白味のないモノしか作られないし、手に入らなくなりますよね。


■ ある意味、社会主義国家のマーケットみたいな状況で(笑)、それは豊かさとは程遠いですよね。選択肢が多いことが、豊かであることのひとつの定義ですから。「弱肉強食」と言いますけど、動物の世界では、本能がその危険性を知っているためか、肉食動物が草食動物を狩りつくすことはない。でもビジネスには本能がないから、抑えがきかない。

T: だから大多数の人にとっては、もしかしたら必要ないかも知れないし、必要だけど値段が高くて割に合わないかも知れないモノでも、感性に基づいたモノはあって良いと思うんですね。そこに共感して、買って、所有することに喜びを感じてくれる人は、確かにいるんですから。


■ 感性や想いが、お金とはまた別の次元で伝わる土壌がね。御社が有料で発行されているカタログも、作り手の想いを届けるためのものでしょう?

T: 最初の頃はスペックだけ書いていた、普通のカタログだったんですけど、それだと伝わらないことが多過ぎて、どんどん文章が増えていったんです(笑)。今だとカタログは、無料でダウンロードできるのが当たり前ですから、お金を出してまで、誰が買っているんだろうかと思います(笑)。同業者が買っているだけなんじゃないかと。


■ 雑貨系の雑誌を買う感覚で買われている人もいるんじゃないですかね。これからも感性を大切にしてがんばって頂きたいと思います。本日はありがとうございました。

T: ありがとうございました。



いかがでしたでしょうか。インタビューというより討論になってしまった感はありますが(笑)。皆さん、たとえばお買い物の時に、「これ、良いなぁ。でも高いな。今回は百均で間に合わすか」と思うことってあると思います。しかし、その良いと思ったモノは「有限」であること。そしてその「良いな」と思った根拠には、作り手や供給側の様々な想いとあなたの心との共感があることが、彼のお話からはうかがえます。

消費において、絶対の正解はありません。お金は大事ですから、予算に徹するお買い物も勿論、大事なんです。でも翻して言えば、心の声を聴いてお買い物することも大事なんじゃないでしょうか。お金を節約すると言っても、どの道、私たちの命も有限。あの世にお金を持っては行けないのですから。え、遺産にすれば後世の役に立つって? どうぞ、どうぞ。相続税、贈与税などの名目でお上に吸い取られて、わけの分からない使い方をされるために現世で節約することが有意義と思われるなら、何も言いませんよ。



インタビューと文: 三坂陽平