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日本の包丁
ツヴィリングJ.A.ヘンケルスジャパン

丹羽めぐみ

< 2016年08月07日 >

モノつくりとは、ひとつのイディオム(慣用句)のようなものだと、つくづく思う。イディオムとは、たとえば「腹が黒い」「手が早い」などのように、二つ以上の単語が結びついた時、それぞれの語とは別の意味が浮かんでくる句のことだが、包丁作りにしても正にそうなのだ。工程を幾重にも重ね、その途中途中では何の用も足さない鋼の塊だったものが、出来上がった時には包丁に「なっている」のだから。

工程が重なってゆく以上、後半になるにつれ、重要度は増してゆく。後が犯す失敗は、前々の工程を台無しにすることにつながる。丁度、リレー競争のようなものだ。包丁作りにおいて、リレーの「アンカー」にあたる工程は、「刃付け」である。その刃に必要な構造を、研磨などの加工によって形成、寄与する重要な工程だ。

刃付けは、包丁というイディオムの要(かなめ)と形容され得る。今回、縁あって、キッチン・ツールの名門「ツヴィリングJ.A.ヘンケルスジャパン」の日本工場でトップ・レベルの刃付け職人、丹羽めぐみをたずねた。彼女へのインタビューから、同社の包丁、そのイディオムの本質が垣間見えそうな気がするのだが、果たして・・・



丹羽めぐみ「私の場合、明確に包丁の刃付け職人を目指していたわけではありません。ここがツヴィリングになる前の工場の時から在籍していますが、18歳の時に、学校に斡旋で来ていた募集に応募して、高校卒業後、入社しました。キャリアは今年で12年目になります。もともと在学時代から何かモノを作る仕事に携わりたいと思っていたんです。で、(岐阜県)関市といえば刃物かと(笑)」


岐阜県関市は日本有数の刃物造りの町として有名であり、工場もこの町の一角にある。丹羽は「関市の人達は、刃物とか包丁に対して、(よその人達よりも)見方が厳しいかもしれません」と言うが、それだけ自分たちの町の特性と歴史に自負するところが大きいのだろう。この町で育った彼女が、包丁の鍛造に携わるのは、極めて自然な流れだったのかもしれない。

元々、ツヴィリングは関市にあるこの工場に包丁の製造を委託していたのだが、自社でよりクオリティの高い包丁を製造したいという思いから、2004年、その工場を買収した。丹羽の言う「ここがツヴィリングになる前」には、このような経緯が存在するわけだ。ならば、彼女の経験した「ツヴィリングになる前」と「なった後」を聞くことは、同社の本質を知る手がかりとなり得るに違いない。


丹羽「私が入った頃というのは、まだ女性が刃物作りの現場にいるのが珍しく、刃付けにしても“女の子にできんの?”というムードでした。トイレ掃除とか洗濯などの雑務も、女性の仕事でした。今はそれを専門にする清掃員さんがいらっしゃいますが。あとは給料も、同じ仕事内容なのに女性の方があからさまに少ないとかありましたね」



実はこのインタビューが行われる一時間ほど前に、同社役員に工場を案内してもらったのだが、見た限り、作業に従事する人々の2~3/10は女性だった。勿論、良いモノを創るのに性別はあまり重要ではないのだが、大半の人は、包丁の職人と聞くと、男性を思い浮かべると思う。しかしあにはからんや、繊細な作業の多い包丁作りでは、女性の力が発揮されることも多いのだとか。



コンピュータ・システムなど、情報工学の世界では、しばしば「最適化」が用いられる。動作やシステムの状態(メモリ使用量など)を最適な状態に近づけることを意味する言葉だが、ツヴィリングにおいても、その「最適化」の精神が息づいているように思う。流動的に変化する時代や状況に合わせて、適宜システムを改善している。つまり、工場において、女性の力が発揮されやすい環境作りが取り組まれてきたということだ。

丹羽「以前のスタイルではなかなか人は付いてこないでしょうし、これからの時代に合っていないように思います。だから今の環境はすごく良くなったなと思います」