日本語 | English

■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







Atom_feed

O: 日本だと靴の裏面とか見て買う人もいますけど、そこって十五分くらい歩いたら擦れて変わっちゃうトコで。そういう訳わかんないマニアとかも多いんですけど(笑)、そういうのは気にせず、あたしはイギリスのやり方やレベルでやって来てます。教室の生徒もこだわる所はこだわってやっていますし。


■ 「ゆりかごから墓場まで」じゃないですけど、そうしたら大川さんが作った靴の世話は、大川さんが亡くなられた後も・・・

O: だって全部面倒見ますって言ってますんで、それは面倒見ないと(笑)。ただ弟子で工房を持ってるのは同い歳位なので、死ぬ時期はほぼ同じとは思うんですけど(笑)。若い人が出たらまた変わってくるでしょうし。イギリスだとお爺さんの代からロブでオーダーされていて、成人したらお爺さんに連れて来られてオーダーする方とかも多いです。「前の職人は死んじゃったけれど、今はこの人がやってくれるんだよ」って。で、やっていることが半端じゃないですから。お客様が「こうして欲しい」って云ったことに対して、絶対断らないんですね。それを叶えてあげられるハズだから、って職人みんなで集まって話し合って作っていきますから。そういうことをして「あの値段」なんですね。


■ その人の右足と左足に合った靴を妥協なく作るから、と・・・

O: それとテイク・ケアを凄くしますから。靴ってお店で買って終わりじゃないですか。ビスポークの場合は、お客さんの足がどっか痛くなったとおっしゃったら修正する、革が傷んできたらすぐ修正する、体重が増えてきたらまた木型からやり直す。その人の靴に関して、かかりつけの医者みたいに対応してナンボなんですね。履いた後の付き合いが長いし深いし、そこで金銭が発生しないことも多いんですけど、そういうことも含めての値段なので・・・もう履けなくなったから、って靴を飾る人もいますけど、そうじゃないんですよね。


■ そうすると日本では、ビスポークの靴の作り手は増えたかも知れないけど、ユーザーとしてはまだこなれてない、という・・・?

O: でもそれは仕方ないんじゃないですか? ビスポークの難しいトコは、たとえばネットで「〇〇の靴が良い」とか言っても、みんな違う足なんですから、あなたには良いかも知れないけどあたしにはダメよ、っていうのが絶対ある。人の意見があてにならない商品ですから、自分が試してみないと分からないので、浸透には時間が掛かると思います。


■ お弟子さん達と「シュー・フィッターズ」なるプロジェクトもされていますが、あれは既製品の靴を修正して頂ける、という?

O: 足に問題のある人、合わない靴を買って足を変形させたりしている人って多いので、足を見て、どういう履き方がダメだとか、既製品ならこういう靴を買ってくださいだとか、ってご説明をしています。だってもったいないじゃないですか、デザインは好きで買ったけど痛くて履けないとか。だから足と靴の関係を説明しつつ修正させて頂いています。


■ そうするとイギリスにいた頃のような、決まりきったルーティンというのは今の大川さんにはない感じですか?

O: あります。でも自分で作れるルーティンなので。こっちの仕事もやらなきゃいけない、このプロジェクトも進めなきゃいけない、って。自分が全ての責任を背負っているので、それだけでも刺激にはなりますし(笑)、退屈ではないですね。あと、自分がしていることは流行らなくて良いと思っているんです。流行ったことって廃れるじゃないですか。そうではなくてジワジワと広まって行けばいいなって。百年掛かろうが二百年掛かろうが。


■ 時間を掛けて根付いていく感じですか。

O: 作り手にしても、腕が良いか悪いかというのは、手先が器用か不器用かじゃない。あの時はどうだった、みたいな、そういう蓄積があるかないかで靴の作り方って変わって来るので、何足作ったか、その一足一足に思い入れて作ったか、そうしたら経験値になりますから。長くやった分、その人しか知らないことってあると思うんですよね。あたしはそういうのを弟子達や生徒さんと、出来るだけシェアして行きたいですし・・・


■ それにしても物理的に時間が掛かるわけですよね。過去、現在ときて、最後に、大川さんのこれからについての展望など、お願いします。

O: 人間の足は片足二十六の骨で出来ているんですね。その一個一個の骨の大きさが違うから、既製靴で足に合わせるとなると非常に難しい。まぁ骨単位で木型作るのも珍しいかと思いますけど、あたしはそうやってきたんですね。でも最近ブーツに別の可能性を感じています。ブーツだと短靴とは押さえて締め付ける場所が違うので、ある程度のデザインとある程度の木型の数を揃えていれば、(初めから木型を作ったりデザインしたりするよりも)低価格で履き心地の良い靴を提供できるんじゃないかと。


■ まぁ、三十万円前後って、一般的に言うと高いですからね。

O: 友人から「もっと安く作ってくれ」って、十年くらい云われていて(笑)。あと二、三年の間には何とか実現できるんじゃないかと。作る側からすると、三十万は安いんですよ(笑)。本当に身を粉にして働いて、大した利益にもなってないんですね。だけども、払う側からすると三十万は大きいというのは解りますので、この不景気の中ですし、そこを何とかしていく・・・のが次の課題ですかね。中途半端なものを出すわけにはいきませんし、価格を抑えて完璧に近いものを提示するには、もうちょっと時間は掛かるんですけど。


■ 楽しみにしたいと思います。本日はありがとうございました。

O: ありがとうございました。


インタビューと文: 三坂陽平