■ 「ブチ」シリーズは木のオモチャなわけですが、柴田さんご自身のオモチャ観についてもお伺いします。柴田さんが幼少の頃って、どういうオモチャで遊ばれていましたか?
S: 世の中には「良いオモチャ」と言われているものがいくつかあると思いますが、残念ながら私はそういうものをまったく持っていませんでした。田舎に暮らしていましたし、当時は今みたいに流通も良くありませんでしたし、海外製のオモチャや日本製でも丁寧につくられたものがあまり無かったので、手に入りにくかったと思います。だからオモチャはあまり好きではなく、むしろ遊ぶものは自分でつくったりしていました。
■ と、言いますと?
S: いわゆるリカちゃん人形のようなものを懸賞で当てたことがありましたが、リカちゃんハウス(に相当する物)や、リカちゃんのお洋服などは自分でつくっていました。他にも、お菓子の箱や包装紙を集めて車をつくってみたり、すべり台のようなギミックのあるオモチャをつくったりしていました。
■ 何かをつくることの方が好きだったんですね。
S: 家が織物をやっていましたので、手で何かつくるということが珍しくなかったのだと思います。家には布がたくさんあったので、人形の服は自分でつくるものだったし、それに付随して人形の家も自然につくっていました。人形で遊ぶよりも、それをつくる方が楽しかったですね。つくることが遊びでした。
■ そういった幼少の体験は、「ブチ」シリーズの開発に際して、何らかの影響は与えたと思われますか?
S: そうですね。そういう幼少期を過ごしたので、すべてが完成しきらないオモチャが良いなと思いました。車のオモチャだから車の形をしているのではなく、物を載せられたり、いくつか繋げれば電車にもなる、自由度のあるオモチャにしたいなと。色々な遊び方を誘発できるように、オモチャ自体を完結させないということを意識しました。
柴田文江
プロダクト・デザイナー
山梨県生まれ。家電メーカー勤務を経て、
1994年にDesign Studio Sを設立。
無印良品の「体にフィットするソファ」や、
オムロンの「けんおんくん」、
カプセルホテル「9h(ナイン・アワーズ)」等を
手掛けるなど、幅広い領域で活躍している。
毎日デザイン賞、ドイツiFデザイン賞金賞などを
受賞するなど、国内外からの評価も高い。
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■ 柴田さんは、電化製品から文具、玩具、家具など多様な生活用品をデザインするのみならず、武蔵野美術大学で教鞭をとられたり、ドイツiF賞を受賞されたりするなど、日本の工業デザイン界の代表格のお1人であると思います。その柴田さんから見て、今の日本のオモチャに思うところなどありましたら、お願いします。
S: すごく幅が広がったと思います。良いものばかりではないのが残念ですが、大人が意識を持って選べば、良いものが手に入るようになりました。
■ 交通網もネット・ショッピングも発展しましたからね。
S: 今の時代は、親も子供も沢山の情報を持つことができます。上質なモノもたくさんありますが、中にはそうではないものもあります。今の子供たちにとっては、モノが「ない」ということはありません。だからこそ大人が何を選ぶかは重要だと思います。
インタビューと文: 三坂陽平
取材協力: Design Studio S