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『銀河鉄道の夜』
この「夏の夜話」は、大人にこそふさわしい

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「ジョバンニ」と「宇宙」を主体とした、宮沢賢治の未完の名作童話といえば、そう、『銀河鉄道の夜』である。そのセンチメンタルで詩的な内容から、作者が故人であり未完であることも手伝って、未だに多くの解釈を呼ぶ文学作品である。が、ゆえに名作たり得る、ということでもあるだろう。

そんな『銀河鉄道の夜』の世界を、1980年代の日本のセンスと技術を以て、独特の解釈で再構築したアニメ映画が、『銀河鉄道の夜』(当然タイトル自体はそのままだが)である。


まず、何が独特かというと、主要キャラクターがネコであることだ。今でこそCG全盛で実写とアニメの境界線も曖昧になってきてはいるものの、(『トイ・ストーリー』も『ジュラシック・パーク』も作られていない)当時の技術水準で言えば、アニメでしか成立しなかった描写である。

この描写は、もちろん無意味なのではない。この映画を暗闇で観た者が感じるのは、恐らくは得体の知れない「不安」である。それは原作としての童話が含んでいる空気感を、アニメというフィールドで的確に表現しているのであり、主人公たちを「ネコ」というミステリアスな記号で存在させることでこそ実現し得たのだ。仮に、主人公が人間の少年だったとすれば、どうしても「彼」の物語として捉えられてしまう。キャラクターをネコに設定するというのは、観客を物語の世界観に引き込むのに、非常に有効な演出なのだ。

淡々と物語は進行するし、ネコである主人公たちもまた淡白に映る。それは現代で言うところのエンターテイメントではないかも知れない。が、ゆえに演者たちの「間」やセリフ回しがじわりじわりと効いてくるのであり、それがまたこのポエティックな世界観にマッチしているのだ。

それらは、もはや推測するしかないところだが、宮沢賢治が『銀河鉄道の夜』で描こうとしていた「心の部分」を適切に表現していると見ていい。氏の実弟である清六氏(2001年・没)をして「賢治も喜ぶでしょう」と言わしめたほどに。

夏の夜の少し不安な涼しさ、闇に渦巻くなんだかわからない寂寥感、これらを正しく解釈するのは恐らく不可能であるし、時代によっても分かれるところだろう。だが、端的に言えばこの映画には「孤独な旅路」に伴うほぼすべてが凝縮されており、ために子供よりもむしろ齢を重ねたアダルトにこそ観劇されるべき映画作品と言える。

田中真弓、納谷悟朗、坂本千夏、堀絢子、青野武など、名作を表現するに相応しく、声優陣も一流どころが揃っており、ドラマの土台をそれぞれが強固に支えている。また、細野晴臣が担当した音楽と劇との調和もコレまた素晴らしく、つまり<味わう>に足る映画なのだ。




作品情報

・監督: 杉井ギサブロー
・脚本: 別役実
・原作: 宮沢賢治
・音楽: 細野晴臣
・配給: 日本ヘラルド映画
・公開: 1985年7月13日
・上映時間: 107分







 

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