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『紅の豚』
この空を飛ぶ物語は、日本人男性へと向けて

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押井守監督が自著でこんなことを言っていた。「宮さん(宮崎駿)はアカ(共産主義者)ですよ」と。インタビュアーは「みんな知ってますよ」と応えていたが、いや、今時は知らない人も多いのではないだろうか。そういうところでも、この映画は「何もそこまで明け透けに自分を表現しなくても・・・」と、公開当時我々をびっくりさせたものである。宮崎駿監督の映画『紅の豚』(1992)は。

紅の飛行艇を乗りこなし、違法に暗躍する空賊たちを次々と追い払う賞金稼ぎ、ポルコ・ロッソ。彼の飛行艇を操る腕は一流で、舞台は世界恐慌時代のイタリアではあるものの、まぁ、稼ぎまくる。ただ、彼は人ではなく豚であった、という話である。


作品自体は資本主義や戦争への批判を隠し味程度に盛り込んでいるものの、コミュニズムを押し出す描写はない。とはいえ、作品は作者を投影するもので、この映画に登場する紅の飛行艇は、そのまま宮崎駿の信条のカラーであるだろうし、このポルコ・ロッソというキャラクターも彼自身のダンディズムの具象と形容されてしかるべきだろう。

スタジオ・ジブリの作品には珍しく、ある程度大人の男、もしくはそういったダンディズムに憧れる男にウケがいい映画でもある。私の知己の女性の中で、「ジブリ映画の中でこの映画が一番好き」という人などに、会ったことがない。

この映画の最大の魅力は何と言っても、「イタリアが舞台なのに凄く日本的」なテイストではないだろうか。

例えば、日本人はよく「匠(たくみ)の技」というような、職人技が好きである。しかし、産業革命以降の世界のトレンドは、匠の技を機械で実現して安定供給を可能にする、というもの。つまり、20~21世紀にかけて職人の技というのは時代遅れのシロモノと化した訳で、その価値は世界的に急落した。

だが、作中に登場するイタリア・ミラノの「ピッコロ社」。倒産寸前の飛行艇整備会社であり、主人公・ポルコの昔なじみでもあるここの社長は日本人が大好きな、いわゆる「匠」であり、ここの労働現場も、男は皆出稼ぎに出ている為、女性ばかりが働く、これまた日本の特徴でもあった労働集約を表現している。


産業革命がもたらした最たるものは、人件費のカットダウンである。西洋では資本こそ第一であり、仕事に使う人数や時間を減らすことが第一に求められたからだ。日本の場合、人件費が高騰する前までは、人材が安くて豊富だった。そのため、「匠の技」などが生まれやすかったと見る向きがあるのだが(※)、その時代に顕著だった「労働集約」は、このピッコロ社にも見て取れる。ポルコは自身の飛行艇をこの会社で修復してもらうのだが、そのシーンを見てノスタルジーや憧憬を感じる日本人は少なくないはずだ。

主人公がもともと人間なのに「なぜか」豚になっているという、いわばファンタジーとしての側面も含めて、イタリアを舞台としながら実は日本的なシーンが点在するという、極めてミクスチャーな映画であり、日本人の男の為に存在するアニメ映画と捉えて、間違いはないだろう。




※川勝平太『日本文明と近代西洋-鎖国再考』NHKブックス・1991年
 中岡哲郎『日本近代技術の形成』朝日新聞社・2006年



作品情報

・監督: 宮崎駿
・脚本: 宮崎駿
・原作: 宮崎駿
・音楽: 久石譲
・配給: 東宝
・公開: 1992年7月18日
・上映時間: 93分







 

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