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『日本誕生』
あなたをあなたたらしめる物語を伝えるスペクタクル

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悲しいことですが、日本という国の成り立ちや名称の由来すら知らないまま、日本国民としてその恩恵を享受している人がまことに多いと言います。恩恵というのは、たとえばパスポート。申請には時間とカネが掛かりますが、菊の御紋のパスポートは世界的に信頼が高く、ゆえに大抵の他国にあっさり入れるわけです。


人は生まれながらに不安です。母親の胎内からポンと排出されて、否応なく世界へと送り込まれ、いわれのない宿命をその一身に受け続けるわけですから。だからこそ、自分は何者なのか、何に帰属・立脚して「私」は存在し得るのかを、くさびを打つような形でハラに落とし込まないと、不安に精神が負けてしまいます。ちょっと前に流行った「自分探し」なんていうのは、そういった不安に基づいた暴挙の典型でしょう。

東宝の製作1000本記念映画として1959年に作られた『日本誕生』は、「古事記」や「日本書紀」で描かれた世界をもとにして、日本武尊(ヤマトタケル)の戦いを主軸に、須佐乃男命(スサノウノミコト)の伝説などにも触れながら、我々に日本という国の成り立ちの神話を伝えてくれます。その壮大な物語に相応しくあるべく、三船敏郎、中村雁治郎をはじめとする東宝の豪華俳優陣が、渾身の演技を展開します。

ここで「何だ、神話かよ」とバカにしてはいけません。神話はフィクションかもしれませんが、それは物語であり、歴史であり、日本人の国民性や国として持ち続けた文化の根っこでもあるのです。そもそも、物質的に確かなモノ・より良きモノを求める西洋文明の対極に位置する東洋文化を育んできたのが日本なのですから、神話をもってこそ、その真髄に触れられるのです。

知識は、情報は、経験は、金銭は、確かに力となり得るかもしれません。しかしそれらを全て手放した時、あなたに何が残るのでしょう? 自分を生んだ父と母、その父と母を生んだ祖父母たち、そうやって歴史を辿って行った、その過程とその先にあるものこそ、あなたをあなたたらしめるものではないでしょうか。比類なき不安にさらされ続ける今日の日本において、『日本誕生』は、日本人が今一度観ておくべき映画だと思います。



作品情報

・監督: 稲垣浩
・脚本: 八住利雄、菊島隆三
・製作: 藤本真澄、田中友幸
・特撮監督: 円谷英二
・配給: 東宝
・公開: 1959年10月25日
・上映時間: 182分







 

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