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■ 8月31日~9月29日にかけて、「2016年のポップス」を(今頃)取り扱います







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『命くれない』
瀬川瑛子が歌う、紅い糸で結ばれた夫婦歌(めおとうた)

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セールス、音楽性、認知度などあらゆる面にて、国内ポップ・ミュージックの凋落(ちょうらく)が際立つ昨今、相対的に演歌の認知度は、一時と比べるとではあるが、上がってきている。

とはいえ、発表される演歌楽曲がオリコン・ウィークリー・チャートの首位を獲得するほどのヒットにはならないのが、悲しいかな、現状である。国内チャートの首位に輝く顔ぶれは今のところアイドル三昧であり、後はたまに大御所とされるポップ・アーティストが顔を出すくらいだ。

そんな現代からは想像もつかないだろうが、演歌のシングルが、オリコンの年間ヒットチャート首位を飾った時代もあったのだ。瀬川瑛子が歌う『命くれない』も、1987年の年間チャート首位を記録した、そんな演歌楽曲の1つだ。


「運命の紅い糸」という言葉を最初に耳にしたのはいつだったか、もう定かではないが、ロマンスの要素として、または宿命論・性善説のメタファーのひとつとして、広く日本人に親しまれている言葉だと思う。結ばれる運命にある男と女は、生まれた時から紅い糸で結ばれている、というものだ。この場合同性愛者たちはどうなるのかは分からないが、この象徴を歌ったのが、『命くれない』なのだ。

曲の中では、紅い糸で結ばれたがごとく、運命を共にしようとする夫婦(めおと)の切なさと覚悟と、そしてむせ返らんばかりの激しい愛情が、情感を籠めて歌われてゆく。

結ばれ共に生きる運命にある、というのは奇麗事だけを表しはしない。「どうあがいても、この人と生きてゆくしかない」という、不可抗力をしたがえた鎖でつながれるのは、決して逃げようのない牢獄をも意味するのだ。だが、それでも歌にこめられた愛は、生涯全ての苦楽を共にしようとする。

その生々しさと想いの丈の深さは、現代のポップスにおいてはほぼ表現され得ない程のものである、と記しておく。


作品情報

・作詞:吉岡治
・作曲:北原じゅん
・歌唱:瀬川瑛子
・発表:1986年3月21日
・レーベル:日本クラウン







 

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