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■ 2月28日~3月30日にかけて、「日本の伝記」を取り扱います







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『南米のエリザベス・テイラー』
日本の「夜の街の音楽」を体現した、菊地成孔の転換点

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ジャズの素性を考えるに、日本人によるジャズというのは黄色人種として持つ歴史に根ざしていない、異国情緒の真似事に過ぎないものと思わざるを得ない。

まして、日本人が昔日の英国女優の名をタイトルに冠しプロデュースしたジャズ・アルバムというのは、同じ日本人が聴いてもトリップ気味になるほど異国情緒過多である。菊地成孔が2005年にソロ名義でリリースした『南米のエリザベス・テイラー』はつまり、日本人が体感し得る「時間軸と空間軸における移動性」をめいっぱい体現したジャズ・アルバムなのだ。

実質的なオープニングである「京マチ子の夜」。オールド・タンゴであろうか、キャバレー音楽か。しかし非常に日本人の耳に心地好く馴染む。ジャズはよく「夜の音楽」と形容されるが、アルバムを通して届くのは、間違いなく日本人の多くがそう捉えやすい「夜の街の音楽」である。

南米のエリザベス・テイラー
2005年4月29日 発売
イーストワークスエンタテインメント

01. ラウンジ・タイム#1
02. 京マチ子の夜
03. 恋の面影
04. ホルヘ・ルイス・ボルヘス
05. パリのエリザベス・テイラー (存在しない)
06. 南米のエリザベス・テイラー
07. ラウンジ・タイム#2
08. ラウンジ・タイム#3
09. コルコヴァード
10. ルペ・ベレスの葬儀
11. クレイジー・ヒー・コールズ・ミー
12. 南米のエリザベス・テイラーの歌
続く「恋の面影」は菊地とカヒミ・カリィのデュエット。演奏の優美さと同様、2人の息遣いまで聴こえる仕上がりに、前述した「夜の街の音楽」であることに対する強い執着を感じる。作曲したバート・バカラックのファンの耳も濡らすほどに、ではあるまいか。

ボサノヴァの名曲「コルコヴァード」等のカヴァー曲と、「ルペ・ベレスの葬儀」等のオリジナル曲を織り交ぜつつ、一貫して提示されるファースト・クラスの艶っぽい気だるさ。成人した日本人ならこの空気に必ずや何らかの反応をしてしまうだろう。

さて、菊地はこのアルバム楽曲をステージで再現するため、ぺぺ・トルメント・アスカラールというスモール・オーケストラを編成。翌年からは「菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール」として複数アルバムをリリースするようになる(今年も同名義でリリース予定がある)。このことから、『南米のエリザベス・テイラー』は菊地のキャリアにおいて大いなる転換点になったことが窺い知れる。

ちなみにエリザベス・テイラーは往年の英国女優であり、菊地は彼女によほどの思い入れがあるのか、彼女の主演映画『バターフィールド8』のテーマを、後に「菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール」名義でカヴァーしている。

なお「この作品は本当にジャズか?」という類の問い合わせは、一切ご遠慮願いたい。菊地が過去と現在、世界中をトリップするかのようにして『南米のエリザベス・テイラー』で再現した音楽は、日本の歴史の中で日本人に沁み込んだ「ジャズ」のひとつの形には違いないのだから。






菊地成孔の第三インターネット






 

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