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『アンソロジー』
木住野佳子のリテイク・ベストが提示する「可能性」

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『アンソロジー』は、ジャズ・ピアニスト木住野佳子のレコード・デビュー20周年を記念して、2015年にリリースされた作品。木住野のキャリア初期にあたる20世紀中にリリースされた彼女のリーダー・アルバムの中から、人気投票で選ばれた楽曲を再アレンジ、再録音して収録。リテイク・ベストと言うべきか。末尾には新曲「プレイヤー」がおさめられている。


『アンソロジー』
2015年8月26日発売

ユニバーサル ミュージック

01. Manhattan Daylight (Y.Kishino)
02. Fairy Tale (Y.Kishino)
03. Vera Cruz (M.Nascimento)
04. Waltz For Debby (B.Evans)
05. Desert Island (Y.Kishino)
06. Danny Boy (Trad)
07. Beautiful Love (V.Young)
08. Tenderness (Y.Kishino)
09. Night And Day (C.Porter)
10. Jenga (Y.Kishino)
11. Prayer (Y.Kishino)

Recorded on June 3 & 4, 2015
Produced by Yoshiko Kishino
木住野佳子のオリジナリティとは━━たとえば2000年にリリースされた『テンダネス』などに顕著だが━━、「癒し」の風情だった。少なくとも私はそう思っていた。しかし今回「2015年の彼女が、初期の彼女とダイレクトに向き合った形のベスト・アルバム」を聴いて感じたのは、そのオリジナリティ(と思っていたもの)は、現在の彼女からは失われたということだ。

ここに「癒し」はない。

一般的に言えば、ミュージシャンがキャリアを重ねるにしたがって、彼/彼女の出す音は太くなる。ウェス・モンゴメリしかり松本孝弘しかり。それがそのままそのミュージシャンのアイデンティティの確度として語られる場合も多々ある。予め断っておくが、私は何もそのこと自体を否定するつもりはない。

さて、木住野の場合も同様だ。彼女が奏でるピアノの音は、キャリア初期と比べて太くなっている。それは彼女の成長の証明かもしれない。だが、聴感上、そこに「癒し」を感じることは難しくなっている。あくまでも個人的に言うと、の話だが、「強い音」には癒されない。てか、はっきり言って聴いていて疲れる。

或いは録音機器やミックスの方向性が時代を経て変わったせいかもしれない。2000年前後といえば、まだ録音はアナログ(テープ)が主流だったはずだ(今やハードディスク・レコーディングがメインだけど)。アナログの「クリア過ぎない」録音特性が当時の木住野のプレイとフィットし、それが癒し効果として表層に出ていただけだったのかもしれない。その意味で、癒しの風情を木住野のオリジナリティと思い込んでいたとは、極めて皮相的な見方だった、という批判も成り立つだろうか。

私が『アンソロジー』から学んだことは2つ。ひとつは、昔の木住野のプレイにはもはや出会えないということ。それが良いことなのか、悪いことなのか。きっと両方の面があるだろう。どちらを見るかは聴き手に委ねられて然るべきだ。

そしてもうひとつは、私たちはともすれば「細い音」「太くない音」にも何らかの意義を見出せるし、時としてそれは、ミュージシャンの確かなアイデンティティとして(世間で)もてはやされる「太い音」よりも美しく響くことがある、という可能性だ。前述した通り「太い音」やそれを称賛する人を否定する気はない。要するに、私たちは音楽をもっと多様的・多面的に楽しめるのではないですか、と言いたいだけである。



Pianist-木住野佳子-Official Site






 

『ティー・タイムズ』
大西順子のセカンド・ステージと転身

『テンダネス』
木住野佳子の初期の頂としての「癒し」