先生(以下:S): というわけで、アシスタント=Aと、今回は大滝詠一の影の名作とされるアルバム『ナイアガラ・カレンダー’78』について、いってみよう。
A: サブちゃんの「
まつり」以来ですね、先生。
S: 遡る事、時は1977年、大滝氏は多忙な日々を送っていた。レコード会社との契約の都合上、3年間で12枚のアルバムを作らねばならなくなっていたのだった。
A: フランク・ザッパか大滝詠一か。
S: そんな中で発表された一作なんだけど、テーマはカレンダー。1年、つまり12か月をそれぞれ表現した12曲で、アルバムを構成しようというものなんだ。
A: マトモにやってちゃ、ネタがなかったんじゃないですか?
S: いやいやいや、このアルバムが良質なポップスたるゆえんは、12曲それぞれが異なる音楽的テーマで作られているという点にあるんだ。たとえば、1曲目なんてまんまプレスリーのロックンロールなのに、2曲目になると流麗なストリングスに彩られた、センチメンタル・バラッドだ。
A: ロックンロールに乗せて「重刃竹」なんて歌詞はシュールすぎますね。
S: 岩手出身の大滝氏の実家に代々伝わる遊びだそうだ。全体として、日本のお正月を象った歌詞になっている。そう、つまりこのアルバムは、日本人にしか作れない、日本ならではのアルバムなんだ。海外に滞在すると、この意味がよく分かるだろう。
A: 海外に行った事ない先生に言われてもです、先生。
S: 何を言う! 早見優! たとえば12月の「クリスマス音頭~お正月」だ。日本ではクリスマスにかこつけた恋愛ソングが跳梁跋扈しているが、ここでは音頭で飲めや騒げや。これこそ日本人だろう。
A: 大滝詠一のアルバムで
山下達郎をディスらないで下さい、先生。
S: 独身者のひがみと笑わば笑え! 「座 読書」なんかも、ボ・ディドリー風のダンス曲だからね、読書なのに。大滝氏の音楽的力量とユーモアのセンス、そして愛郷心が丁寧に詰め込まれた、見事な1枚なわけだよ。
A: 最後の曲を聴いていると、また最初の1月に戻りたくなる構成も秀逸ですよね。
S: ちなみにこのアルバム、ジャケットがコロムビア版とソニー版がある。コロムビアの方は1978年のカレンダーになっているのだが、2017年、2023年、2034年にも使える。シャレが効いていてエコロジーだろ。
A: その頃まで先生は生きておられるでしょうか、先生。
S: 何を言う! 蒼井優! このジャケットが暗に示すのは、時代を超えた恒久的かつ普遍的なポップスが、ここにはあるという事だよ。「時代性に対抗するには普遍性しかない」って云ってた大滝氏の作品だからね。
A: そうですね、では良いお年を。