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『グイードの手』
塩谷哲による、二律背反に対するアンチ・テーゼ

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『グイードの手』
2006年4月19日発売
Victor Entertainment

01. Introduction
02. According to la météo
03. Doodle I
04. Mr. Tap-man
05. Yesterday
06. Evening Haze
07. Doodle II
08. Skinny -Dipper
09. Parkside Street
10. Azami
11. Enharmonie
12. 4→0→10→5
13. Calm
「フュージョン」というと、一般には電化ジャズが発展したものと捉えられていますが、その反対の意味を表すならばアコースティック・ジャズ、もしくはアンプラグド・ジャズと言うべきでしょうか。しかし塩谷哲(しおのやさとる)の『グイードの手』(2006)を聴くと、その考えが、厳密な意味では正しくないのでは、と思い知らされます。

「戦争の反対は平和である」などの定立に見られるように、私たちは日常の中で物の本質を見失い、つい物事を誤解したまま捉えてしまいます(平和の反意語は混乱であり、戦争の反対は「交渉」です。念のため)。そんな私たちの愚考ぶりを優しくなぐさめ、またもう一方で厳しく戒めるようなアルバム。それが『グイードの手』と言えましょう。

塩谷哲は、ジャズはもちろんポップスやクラシックなどボーダレスに活躍するピアニストですが、『グイードの手』はその彼が5年ぶりにソロ名義で発表したアルバム。アルバム・テーマは「ジャズの未来形」ということですが、共同プロデューサーである田中義人(日本のギタリスト。今作をリリースし、しばらくして塩谷とバンドを結成することになります)の手腕によるところが大きいと思われます。テーマが壮大なだけに、その実現には両者のコラボレーションが不可欠だったのです。

塩谷が田中を起用した元々のきっかけは、歌手、佐藤竹善のアルバム・ツアーで共演したことでした。自分にない背景と自分よりも若い感性(塩谷とそんなに歳は変わりませんけど)に惚れ込んだ塩谷は共作をオファー。田中が快諾し、田中と気心の知れたミュージシャンを起用する形で制作されたとのこと。主にアルバム前半では田中の、後半では塩谷のキャラクターが立っています。

収録されている曲は、ザ・ビートルズの「イエスタデイ」のカヴァーを除けば、塩谷や田中のオリジナルです。塩谷のピアノが時に優しく、時にアグレッシヴに冴え渡るフュージョン、かと思いきや、聴いた心地はどうもそれ一辺倒ではありません。絶妙なバランスで鳴る、平石カツミのウッド・ベースがそう思わせるのでしょうか、電化に特化した一種のクラブ系サウンドの中、微かにアンプラグドの佇まいを感じる。確かに新しいというか、何処か不思議な響きです。

ちなみにグイードとは、中世イタリアの音楽教師だったグイード・ダレッツォのこと。彼は「ドレミファソラ」という6音階を発明したレジェンドですが、彼が考案した、片手の図面で音階名を学習する視覚教材を「グイードの手」と呼びます。塩谷がこのタイトルをアルバムに冠したのには、そんな先達の聡明な知見への尊敬と憧れがあったと思われます。

電化された音像と同居するアコースティック。塩谷哲の『グイードの手』は、私たちが本来相反すると思い込んでいたものが、実はそうじゃないのかもしれませんよ、と優しく伝えてくれます。



塩谷哲 公式サイト






 

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