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『The Swinging Star』
「永遠のポップス」が、あのころの空気を伝えて

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The Swinging Star
1992年11月14日発売

Epic/Sony Records
価格: 税込2,935円

01. The Swinging Star
02. あの夏の花火
03. DA DIDDLY DEET DEE
04. SAYONARA (Extended Version)
05. 行きたいのはMOUNTAIN MOUNTAIN
06. 眼鏡越しの空
07. 決戦は金曜日(Version of "THE DYNAMITES")
08. 涙とたたかってる
09. HIDE AND SEEK
10. 太陽が見てる
11. SWEET SWEET SWEET
12. 晴れたらいいね

青い下線は執筆者推薦曲を表しています。

Produced by Mike Pela & Dreams Come True
便宜上のことでしょうが、近代を平成以前・以後に分けるやり方をよく見かけますよね。いわく、古き良き昔は昭和時代までであり、平成に入ってからはうんたらかんたら、というようなたぐいです。そんなに昭和が良かったか、というとどうでしょうとか、そういう問題ではありません。

私個人の実感ですが、平成に入ってからもしばらくは、昭和のタイム感というのが存在していたと思います。あの、のんびりした、寛容なのかいいかげんなのか分からない空気が。だってそんな空気を、ドリカムことドリームズ・カム・トゥルーが1992年に発表した、彼らの五枚目のアルバム、『ザ・スウィンギング・スター』に感じるんですから。

このアルバム、もちろん当時のヒット・シングル「決戦は金曜日」などを擁していることもあるんですが、とにかくすごく売れたんです。当時は、まだまだメガ・ヒットといっても、アルバムが何百万枚売れるとか、いわゆる音楽バブルな感じではありませんでした。ちょうど音楽業界が、「沸きはじめた」ころだったでしょうか。

そんな中、『ザ・スウィンギング・スター』は、なんと当時の国内アルバムの歴代最高売上をマークします。発売一ヵ月半で、出荷枚数は300万枚を突破。これはドリカム史上最高の売上でもあります。

その要因は、「流行だったから」というのだけではないでしょう。ありとあらゆる楽曲・歌詞が、同じ時代を生きる男女に向けて、的確に放たれており、ヴォーカルや演奏、アレンジメントのクオリティも、「ポップ・バンド」として申し分がないところまで来ています。

ドリカムがデビューしたばかりの頃、ヴォーカルの吉田美和さんは、「自分たちの音楽を説明しなきゃならないときに、永遠のポップスです、って言ってる。いつまでも残るような曲を作っていきたいから」と語っていました。それは、絵空ごとで終わらなかったのです。

昭和のタイム感は、地域によって若干の差はあるでしょうが、おそらくパソコンや携帯電話が急速に普及し、インターネットが身近になったころ、つまり2000年前後に、情報化社会の到来と共に失われたと思われます。二度と帰らないあの空気。それは、どんな写真によっても、どんな映像によっても、取り戻しようがないのです。

ですが音楽は、空気をふるわせ伝う、一種の振動です。あのころ鳴らした音を封じ込め、なおかつ「ひとつの時代」を築くまでに浸透していた音楽は、あの時代の空気を、どんな媒体よりも正しくパッケージしていると言えましょう。そしてそれが同時に「永遠のポップス」であるなんて、なんとすばらしいことなのでしょうか。



※参考文献:
『日本経済新聞』1993年1月25日付朝刊、13頁
『ワッツイン』ソニー・マガジンズ 1989年6月号


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