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リトル・キス
鹿児島県産、ちょっと噛み合わない焼酎?

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今回のお題は鹿児島県の東酒蔵が手がけたちょっとユニークな焼酎「リトル・キス」である。いささかセクシー系の商品名ではあるが、別にそういう要素は(焼酎にも本稿にも)ない。もしそっち向けのネタを期待されている人がいたら、どうぞここらで違うページへサーフして頂きたい。貴重な時間を自主的に無駄にする筋合いもないだろう。

で、本題。

先に「ユニーク」などと言ってハードルを上げてしまった気がするが、しかしこういう名前って、焼酎にはなかなか珍しくないだろうか?

というのも、焼酎の名前には(たとえば「百年の孤独」や「魔王」のように)漢字か平仮名が用いられるケースが意外と多いからである。もちろん、本邦に「焼酎にはやまと言葉の商品名を付けなくてはいけない」みたいなガラパゴス志向の法律があるわけではない。あくまで自然発生的な傾向として、皆さん和風の名前を付けておられる。だからして、この「リトル・キス」に、どちらかといえば焼酎よりカクテルの名前っぽいとか、日本の酒蔵よりかはバーの方が似合う名前、などと感じるのは私だけではないはずである。


「リトル・キス(紅茶)」

アルコール:14度
価格:税抜960円( 720 ml )
原料:米焼酎、砂糖、紅茶、灰持酒(黒酒)、香料

ということはつまり、この焼酎は、「焼酎らしくないネーミング」が施されてしかるべき焼酎だということである。

「ん? どういうこと?」と思われるかも知れない。分かりにくい物言いだと思う。順を追って説明しよう。

東酒蔵は酒造業界の新興勢力などではない。かの地で彼らが創業したのは、今から百年以上前の一九一五年、大正四年である。

大正期というのは日本史ではあまり目立たない時代だが、当時、世界は第一次大戦でてんてこ舞いになっていた。そんな折、鹿児島では前一四年の一月から一五年の晩夏にかけて桜島が噴火する。この噴火は「二十世紀の日本で起きた噴火の中で最大級」とされていて、それに伴い地震も頻発した。地震と噴火のダブルパンチで、当地での死者、行方不明者は五十人以上を数えたという。

一九一四年の初めから一五年の秋にかけて鹿児島は大災害に見舞われていた。しかし東酒造はその一五年の四月に当地で創業される。なんでまたそんなタイミングで? そう訝っても決して不自然はないだろう。詳しいいきさつは分からない。同社のホームページには、彼らの企業ポリシーであろう「何事も自然が一番」というコピーが目立つが、創業者は間違いなく一級の自然災害を目の当たりにしながら酒蔵を始めたはずである。だからこそ「自然が一番」ということなのだろうか?

どことなく「噛み合ってない感」がある。もしかしたら、それが東酒造の性質なのかもしれない。だからこそ彼らは「焼酎らしくないネーミング」の焼酎を世に出したのでは。そういう推測もできなくはないだろう。

昨今、酒を嗜む人の総数は減少傾向にあるらしい。昨年(二〇二二)のお中元商戦では、多くの百貨店でアルコールよりお菓子の方が売れたと聞く。若い人は、焼酎どころか先ずアルコールを好まない。実際は人によりけりだろうが、そういう全体的な傾向はあるという。その趨勢自体は一概に良いとも悪いとも言えないが、こうなると現在の学生や二十代にとって焼酎は、どこか「前時代的」あるいは「中高年向け」のシロモノに思えるはずである。

そうかと言って、若い人を難詰しても始まらない。である以上、酒蔵に打てる手は「若い世代も手に取りやすい美味しい商品を出す」しかないだろう。

そこで「リトル・キス」なのである。

このシリーズは、紅茶と珈琲の焼酎である。共通する原材料は米焼酎と砂糖、灰持酒で、そこに地場産の紅茶なり珈琲なりをブレンドする。鹿児島といえば静岡と並ぶ茶葉の名産地だから、そういうローカル色を活かしてもおかしくはない。数年前まで「リトル・キス」はカカオ・マスを使ったチョコ焼酎として売られていたが、おそらく不評だった。そこで「カクテル感覚で楽しめる、地元のカラーも活用したライトな焼酎」として再スタートを切ったのだと思う。いずれにしても、従来の焼酎と一線を画すことを期しての商品なので、「焼酎らしくないネーミング」が施されるに相応しいとは言えるだろう。

この「リトル・キス」という名前は、焼酎を「小チュウ」と捉えて、そのまま「小キス⇒リトル・キス」とした地口に由来する。なるほど。なんというか、やはり最後まで「噛み合ってない感」が漂っている感がある。まぁ「キス」であれば、「噛み合わないこと」は必定かもしれないが。


東酒造公式サイト







 

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