こんにちは。本日のお題は、鳥取県西部に位置する境港市の唯一の酒蔵である(らしい)千代むすび酒造が造る米焼酎の古酒「猫また焼酎」です。
同社は慶応元年(一八六五)創立の酒蔵で、主力商品は日本酒です。ご承知の通り、日本酒は米から造られますから、そのノウハウを活かし米焼酎も造ったということかと推察します。
本格米焼酎「猫また焼酎」
アルコール:25度
容量:1,800 ml
蒸留方法:常圧
原料:鳥取県産米、米麹(黄)
しかしこの「猫また」については、今では若干の説明が要るかもしれません。たぶん今だと猫またなんて聞いたことがない人も多いんじゃないかなと。
猫または妖怪の一種で、漢字では「猫又」あるいは「猫股」と表します。まぁ化け猫のたぐいと思って頂いていいかもしれません。猫って、人間からするとなかなか理解しかねるところが多分にありますよね。何を考えているのか、今一つつかめないみたいな。たぶん昔の日本人も、そういう気質を猫に感じたのでしょう。そのミステリアスさから、妖怪のモチーフになったのではないかと思います。
うろ覚えなんですけど、鎌倉時代に兼好法師が書いた『徒然草』にも、たしか猫またって出てきたような気がします。鎌倉時代とか室町時代とか、いわゆる日本の中世とは、世間で「宗教的なるもの」が力を持っていた時代です。このことは中世に確立された能という芸能にもよく表れていると思います。
たとえば能の『安宅』です。これは歌舞伎の『勧進帳』の元になったお話で、両者はだいたい同じ筋なのですが、ディテールが違います。能のほうでは関所の関守が山伏を怖がるシーンがありますが、歌舞伎のほうにはないんです。山伏といえば、山野で密教の教えに基づき修験を積む人達ですが、能が確立された中世の時代、そういう人は「一般の感覚からするとよくわからないこと」をしている人です。だから怖いんですね。でも『勧進帳』の初演が催された江戸時代末期(一八四〇年)には、山伏に関するそういう価値観はもうなくなっていたのかもしれません。
話が脇に逸れましたが、ともかく中世にはそういう世相が背景としてあって、そこで化け物とか妖魔にも種々様々のヴァリエーションが生じたのではと思います。と言っても、あくまでもうろ覚えで話していますから、本当に猫またが『徒然草』に出てきたかは定かではありません。宜しくご了解ください。
で、断っておきたいのは、この焼酎に猫またから抽出したエキスが入っているとかではないということです。
たとえば、まむし酒であれば、ビンの中の酒にまむしが漬けられているなどはありますが、その猫またヴァージョンとかではないということです。だいたいそんな怪しいにも程がある焼酎、飲みたがる人が先ずいないでしょう。いや、もしかしたら存外にいるかもしれませんけど。
ちなみにこの「猫また焼酎」ですが、千代むすび酒造の公式サイトで探しても出てきません。どうも「プライベート・ブランドだから公式カタログには載せない」という方針みたいです。
ということは何だというと、現在進行形で生産されているのかは判じないわけですね。お店で売っているのを見かけたらラッキー、くらいのものでしょう。かような事情を考慮すると、猫またと同様に「幻の存在」と言えるかもしれません。
猫又のブロンズ像@鳥取県境港市
出典:Mizuki-Nekomata.JPG
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2009年8月12日)
そういえば鳥取の境港って、漫画家の水木しげるの出身地としても有名です。水木は『ゲゲゲの鬼太郎』など自身の漫画に妖怪を多く出していました。水木の個性や業績が「境港の特色」というのであれば、猫また焼酎は「境港っぽい焼酎」と言えるかもしれません。