『夏子の酒』は、言うまでもなくベストセラーであり、和久井映見を主演とし、ドラマ化もされた(ちなみにドラマ「夏子の酒」の次クールが「警部補 古畑任三郎」だった)。当然、「るみ子の酒」には、以下のようなバッシングが用意されると思う。「有名作品のもじりじゃねーか」「便乗商法も甚だしい」など。
特別純米酒『るみ子の酒』9号酵母
内容量: 720 ml
原材料: 米、米麹
アルコール度数: 15.7
価格: 税抜1,324円
どのような論点からそんな野次が飛んでくるのかは分からない。けれど、銘柄の名前で酒を語るのは、ナンセンスであることくらいは分かる。
森喜酒造場は決して大きな酒蔵ではない。「るみ子の酒」が初めて世に出たのは1992年。昭和後期から平成初期は、日本酒など売れない、売れても大手のものに限られていたような、小規模生産の蔵にとっては受難の時代だった。が、その折に出会った『夏子の酒』は、森喜酒造場にとって至上の励みになり、彼らに日本酒造りをあきらめさせなかった。
少量生産ではあるものの、原材料や製法に細心の注意を払い、彼らは酒を造る。たとえば、仕込み水は鈴鹿に流れる中硬水を使ったり、米も選び抜かれたものを使ったり。
「るみ子」は森喜酒造場の専務の実名であり、取りも直さず、彼女の名前を、人生を懸けて造られた、ひとつのドラマを包摂した酒なのだ。『夏子の酒』作者の尾瀬が、「るみ子の酒」のラベルにイラストを寄せているのは、その証左に他ならない。