こんにちは。と、冒頭から何の自慢にもならないことを言うようですが、私は流行だとかファッションについて、詳しい方ではありません。もちろん自分の服やカバンは(他人任せにはせず)自分で買うので、ファッションにまったく無頓着というのではないと思います。でもマニアとか通では全然ないんです。だいたい今着ている服だって、ユニクロや無印で買ったものという人なんですから(ちなみに今はピーナッツのUTを着て、下は無印のコットン・イージーパンツを穿いています)。
ただ詳しくないなりに感じることもあって、ここ十年くらい服飾業界は、どこも一風変わった素材を売りにしたアイテムが多くなったなということは肌身に感じます。ユニクロの「エアリズム」しかり、無印の「風を通すなんちゃら」シリーズしかり、アーバンリサーチの「二百日ニット」しかり。いわゆる機能性素材とか特殊素材というものですね。

無印良品 風を通す五分袖布帛Tシャツ(紳士)
色:チャコールグレー
税込価格:3,990円(2026年8月時点)
画像引用元:株式会社良品計画
こういう「ちょっと変わった素材」を目玉にする波はリュック業界にも寄せているのでしょう。というところで紹介するのが今回の「オル」です。
オルというのは、アルファベットで二文字、AとL。これで「アル」ではなく「オル」と読みます。公式サイトによると、これは「オルタナティヴ」の略称のようです。音楽好きの方は「オルタナ」とか聞いたことあるかもしれませんが、その「オルタナ」です。単語本来の意味は「もう一つの選択肢」あたりですかね。
カバンでもファッションでも、先ずメイン・ストリームがあります。いわゆる「主流」とか「王道」と言われるものです。でもそれがすべてというわけではなくて、その周辺にはいろんな「傍流」が存在します。紳士服でいえば、今年(二〇二六)の流行色はグレーとか茶色なのかなと思いますが、一方でカーキやロイヤル・ブルーの服だってちゃんと売られています。主流がありつつ傍流もしっかりある。それは「選択肢がいろいろある」ということです。
そういう中にあって、人々にとって「もう一つの選択肢=オルタナティヴ」であり得るようなアイテムを、国内で作っていこう。世の中の主流は主流でいいけれども、それはそれとして自分達は自分達なりに魅力的な傍流を立ち上げていこう。そういう方向性で作られたブランドが「オル」なのです。
オーガナイザーは、ファッション・デザイナーの山鹿竜輝。彼が二〇二〇年に設立したバッグのブランドということになるわけですが、この人は二〇一三年に「メアリ・オル・ターナ」という女性向けのバッグ・ブランドを立ち上げていたりもします。「どんだけオルタナ好きなんだよ」と半畳を入れたくもなりますが、ともあれそういう先行ブランドがある以上、オルでは既存のよくある素材は使わないという方針が採られます。まぁそうですよね。デザイナーが同じ人で、アイテムのジャンルも同じである以上、素材くらいでしか違いを打ち出せないでしょうから。
と、ここまでああだこうだと概要を述べてきましたが、では実際の現物はどのようなものか?

BACKPACK 包 (Black)
素材:本体=和紙、キュプラ/裏地=ナイロン
サイズ:H52×W33×D14 cm
価格:税込35,200円(2026年8月時点で在庫なし)
これがオルのリュックになります。リュックって、ナイロン製のものもあればレザー製のものもあったりしますが、そのどちらもこのリュック(の外側)には使われていません。じつはこれ、和紙とキュプラの混淆材でできているんです。キュプラというと、聞いたことがない方もおられるかもしれませんが、紳士用品でいえばスーツの裏地によく使われている、なめらかな素材です。服のタグとかには「再生繊維」と表記されていたりします。
「いや、キュプラはともかくとして、和紙かぁ」と驚く向きもあるでしょう。でも私はそんなに驚きはしなくて、初めてこのブランドを認識したときには、どちらかと言えば懐かしさを感じた気がします。
遡ること十二年、西暦二〇一四年ですね。私は「
紙和」というブランドの紹介記事を書きました。紙和とは、簡単に言えば山梨県の和紙メーカー大直と、同県出身のプロダクト・デザイナー深澤直人が手を組んで設立した雑貨ブランドです。ちなみにここの高価格帯レーベルにあたるであろう「
シワ・コウゾ」のデザイナーを務めるのは、なんと私が二〇一五年にインタヴューした
柴田文江女史。あのとき以来接点はまったくありませんが、ご息災そうで重畳です。
とまぁそういう歴程があったので、十年以上前にはすでに和紙のカバンが商業ベースに乗る形であったんだから、和紙のリュックが出てきてもおかしかないわなと思うわけです。
彼らとオルのあいだに何かしら関係があるのかないのか、それは知りません。でも「あの頃芽生えていたものが、じわじわと世間に浸透してきたのかな」と感慨を覚えたりはします。長く生きているといろんなことがあるなと。
前述のように、オルのアイテムは、ユーザーにとって「もう一つの選択肢」であることを前提にしています。メインで使うリュックは他にあっていい。ザ・ノース・フェイスでもポーターでもコールマンでも。ただ、メインのリュックとは別に「ちょっとこういう変わったのも面白いかもな」とトライしてみる。オルのリュックとはそういう時の選択肢であろうと思います。