日本語 | English

■ 8月31日から9月29日にかけて、「日本のリュック」をフィーチャーします。







Atom_feed
スタンダード・サプライ
「普通」を突き詰める

LINEで送る

どうも日本には「目立ちたくない」と考える人が多いらしい。もちろん、こういうのは人による。ワン・オブ・ゼム(=その他大勢の一人)でありたくはないと希う人だって、それなりにいるはずである。でもカバンや服などいわゆるファッション・アイテムに限って言えば、「目立ちたい」と考える人は少数派ではなかろうか。センスがユニークだったりエッジが立ち過ぎていたりして、結果的に「目立ってしまう」というケースはあるにしても。

それは言い換えると、日本人の多くは「普通でありたい」と願って生きているのかも知れないということである。高潔でもなければ取り立てて下劣でもない「真ん中」を目指して人生を構築している。そういう人が多いのではないか。もちろん私はそのことの是非を問うつもりはない。ただこう考えると、じつはこのブランド「スタンダード・サプライ」のリュックは日本のマジョリティー向けではないかと思うのである。



SIMPLICITY COMMUTE DAYPACK
2026年秋冬限定カラー(ボルドー)

重量:520 g
サイズ:H34×W47×D15 cm
本体生地:コットン60%、ナイロン40%
価格:税込26,400円(2026年8月時点)

これがスタンダード・サプライのリュックの実物である。どうだろう? と感想を訊かれたら、言葉に詰まりはしないだろうか。

「どうと訊かれても、実際に使ってみないと、ちょっとなんとも」
「なんというか、外見はフツー、じゃないですか」
「そうね。まぁリュックといえばこういう感じだろうな、っていう」
「です、よねぇ」

こうした歯切れのよろしくない、お茶を濁した言葉が出てくることは、容易に想像がつく。それ自体はブランドの想定内でもあろう。なにしろブランド名が「スタンダード・サプライ=定番を提供すること」なのだから。

このブランド名自体は、聞いたことがない人も多いだろう。個人的にも、たとえば最寄りのイオン・モールとか百貨店のカバン売り場でこの名前を見かけたことはないと思う。ただ、じゃあ公式サイトのオンライン通販のみで販売しているブランドなのかというとさにあらずで、ビームスやシップスなど有名なセレクト・ショップでは、当ブランドの別注アイテムが折に触れて展開されてきた。だからファッションに詳しい人には、わりと馴染みのあるブランドなのかもしれない。



SIMPLICITY LARGE DAYPACK(Steel Grey)
重量:580 g
サイズ:H35×W50×D15 cm
本体生地:コットン60%、ナイロン40%
価格:税込30,800円(2026年8月時点)

ブランドを創設したのは、六〇年代半ば生まれのデザイナー藤本孝夫。サザンオールスターズもコンビニも仮面ライダーもまだ世に出ていない時代の長崎で生まれ育った彼は、近所に米軍基地があったこともあり、アメリカ文化の影響を強く受けて育った。当時(二十世紀半ば)の欧米では、ヒッピー文化が流行していて、そこから「バックパッカー」と呼ばれる人達が現れる。あまり予算をかけずに、バックパック=リュックを背負って国内外をあちこち旅するバックパッカーは、今でも男女問わず多くいるが、源流は二十世紀半ばのヒッピー文化なのである。

ちなみに、こうしたムーヴメントを受ける形で六〇年代後半のアメリカで誕生したアウトドア・ブランドが、日本でも有名なザ・ノース・フェイスである。

それはさておき、日本でヒッピー文化の影響を濃く受けた世代となると、藤本より一回り以上上になろうが、バックパッカーの象徴でもあるバックパック=リュックには、おそらく藤本も馴染みがあった。彼は八〇年代に東京のアメ横や新大久保などで、バックパックをよく物色していたと語る。

長じてバッグ・メイカーに就職した藤本は、バッグ・デザイナーとしてキャリアを重ねる。二十一世紀になって間もない二〇〇四年には独立し、二年後の二〇〇六年に自分の会社「エバーグリーンワークス」と、自社ブランド「アーツ&クラフツ」を設立。このアーツ&クラフツで展開していたバッグが顧客から好評を博し、じゃあそれを軸にしたブランドを別に立ち上げようということで二〇一四年に作られたのが、「スタンダード・サプライ」である。

じゃあスタンダード・サプライはアーツ&クラフツのセカンド・ラインみたいなものかと訝る向きもあろう。でも藤本という個人を軸に考えると、この二つは微妙に違う。アーツ~は藤本がスタートしたブランドなので、良くも悪くも藤本ありきだが、スタンダード・サプライは、会社が成長してスタッフが複数いる中で立ち上がったブランドなので、藤本はあくまで「デザイナーの一人」というポジションで関与している。

社名の「エバーグリーン」も、ブランド名の「スタンダード」も、定番を作るという意志が込められた名前である。それは容易に汲み取れよう。

ただ一口に「定番」と言っても、それを実現するのはなかなか難しい。当たり前だが、しっかりしたクオリティーがアイテムに伴っていなければ、誰も使い続けてはくれないし、それだと定番にはなり得ないからである。だから定番を志す以上、品質に妥協はできない。



例を一つ挙げよう。スタンダード・サプライのリュックに使われているファスナーは、YKKの中でも最高峰とされる「エクセラ」である。些細なポイントかもしれないが、ファスナーの開け閉めがスムースに行くか行かないかというのは、わりと重要だと思う。それが使い心地を左右したりもするから。ファスナー一つにも、品質についてそうそう妥協はしないという彼らのポリシーが、端的に表れている。そう言っていいのではあるまいか。

STANDARD SUPPLY(スタンダードサプライ)




 

AL(オル)
メインのリュックとは別に