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■ 11月30日から12月30日にかけて、「味噌」をフィーチャーします。







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『注文の多い料理店』
「日本の精神」の古と近代は、この料理店で交叉する

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景気回復や経済活性化などの話題が尽きない昨今、さぞ不慣れな財テクに走っておられる御仁も多いことかと察する次第です。お金は生きるツールとして必要不可欠です。しかし、一体いくらの金銭によって、人の生涯は保証されうるのでしょうか? 突き詰めて言うなれば、いくら積まれれば、あなたは自分の生涯を「何か」に明け渡すことができますか?

日本の詩人・宮沢賢治の『注文の多い料理店』は、その決断を迫る潮流の危険性を、ともすれば理不尽なカタチで分かりやすく伝えてくれます。


版画絵本「注文の多い料理店」
出版社:子どもの未来社
英国かぶれの男2人が、狩りのために犬を連れて山に入りました。やがて犬はめまいを起こして死んでしまうのですが、男達は金銭的な損失としかその死を受け止めません。案内人ともはぐれ、空腹でさまよう2人は、「西洋料理店・山猫軒」という札が玄関に出された西洋造りの家を見つけます。その料理店のドアには「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」とあります。そして2人は中へと入るのですが・・・

近代化の波とそれを促す資本原理主義が、この男たちの言動を裏付けているのでしょう。宮沢はアイロニックな視点を忘れず、この「事件」を収束させます。それは日本に古くから伝わる妖怪伝説の数々とも符合する形で、なのですが、つまり自然への畏怖の念の価値も、そこからは伝わってきます。


画本「注文の多い料理店」
出版社:エフ企画
犬は今や立派な経済動物です。我々も、経済を動かす歯車の一部という意味ではそこに等しいものがあります。この童話の顛末は、近代化した思考が持たざるをえない傷痕を、男達を通じてうかがわせます。その代償は金額にして、いくら程度なのでしょうか?

『注文の多い料理店』は童話短編集ですから、その表現はすこぶる簡潔です。また、宮沢賢治の生前に唯一刊行された短編集だけあり、粒揃いで他の作品も読み応えがなかなかにあります。もっとも発刊当時は、飲食店の商業テキストと誤解されて、大して売れなかったみたいですが。


作品情報

・作者:宮沢賢治
・出版:杜陵出版部・東京光原社(1924年発刊当時)

・『注文の多い料理店』(青空文庫)







 

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