21世紀の現代、犯罪捜査に科学のメスを入れることは、もはや常識ともいえる。古くは「推理小説のトリックに、一般には知られていない科学的知識を用いるのは反則」とも言われたが、そんな文言は今では化石同然だ。小説家・東野圭吾の『探偵ガリレオ』シリーズが、累計発行部数950万部を記録していることを見れば、そう考えざるを得ないだろう。
「探偵ガリレオ」こと湯川学は34歳、若手の物理学科准教授。頭脳明晰・長身・運動神経も良いと、男性としてパーフェクトなように見えるが、その偏屈かつマイペースな性格から、未だ独身。そんな彼が向き合うのは、警視庁捜査一課に所属する旧友・草薙俊平が持ち込む、人体発火やポルターガイストなど、超常現象としか思えない事件だ。
2007年にはテレビドラマ化され人気を博したこのシリーズ。そこで湯川の相棒を務めたのが草薙の部下・内海薫刑事だったが、この女刑事、実はドラマ化にあたり、「女性のメインキャラが欲しい」という要請を受け、東野圭吾が作中に、ドラマ化に先駆けて登場させたキャラクター。しかしそれが作品をより魅力的なものとし、その人気に拍車をかけることとなった。「ガリレオの相方といえば内海」という人も多いだろう。
そんなお馴染みの湯川・内海コンビが小説において初登場するのが、シリーズ4作目にあたる『ガリレオの苦悩』(2008)だ。シリーズの魅力を凝縮し、新たな魅力の萌芽も内包している全5話を収録した短編集のため、『探偵ガリレオ』シリーズを初めて読むという人にも、入門にうってつけである。
短編のため、理系出身の作者独特の難解なトリックも、テンポよく読解出来る描写となっているので、推理小説初心者も安心して読んで頂きたい。
また、湯川の恩師が登場するなど、湯川学という人物を軸に描かれているため(警察関係者が登場しない話もある程)、人間・湯川学を知る上でも欠かせない作品だ。タイトルが「ガリレオの苦悩」なのも、うなずけることだろう。