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『俺はその夜多くのことを学んだ』
恋する男の事実は、この小説の奇妙を以って描出される

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「事実は小説よりも奇なり」。この世に起こる現実の事柄は、得てして小説の世界より不思議で不可解なもの、という意味であり、英国の詩人、ジョージ・G・バイロンの著書『ドン=ジュアン』の中の一節です。

その中で彼はこうも述べています。「男の恋は生涯の一部だが、女の恋は全生涯だ」と。なんとも、数多くの女性と恋愛を重ね、ロマン主義の詩人として活躍したバイロンらしい言葉ではありませんか。


『俺はその夜多くのことを学んだ』
幻冬舎文庫
定価:税込480円
しかし恋に関して言えば、奇なるのはたいてい男の方です。20世紀末のロマン主義を短編小説というカタチで表現した、三谷幸喜の『俺はその夜多くのことを学んだ』をお読み頂ければ、恋に落ちた現実世界の男の奇怪が、よく分かって頂けるかと思います。

大好きな女性との初デート。嬉しいですよね、もう舞い上がってしまいますね。そしてデートが終わった後も心はヒート・アップしたまんまです。家に帰っても「もう一度彼女と話がしたい」という欲求を、男は我慢できません。夜、男は彼女に電話をかけますが、その電話が彼にもたらすものは・・・という物語です。

著者は、テレビドラマ、映画、演劇、いずれのフィールドでも引く手あまたの人気作家・三谷幸喜。彼の語り口は実にスムーズで、読む者をスルッとその世界に誘い込みます。そしてアッという間に出口に至ります。「もう読み終わっちゃった・・・」という感覚が、読後のあなたにきっと訪れるはずです。

もしかすると、男の恋は「生涯の一部」であるがゆえに、恋に費やすエネルギー量は短期間に膨大なものになるのかも知れません。反対に、女性は全生涯で恋が出来るゆえに、短期間でのエネルギー量は、男と比べて少ないのかも。だから、恋する男はストレンジ(普通ではない)なのでしょう。

そのストレンジさ(奇妙さ)は、つまり、事実に近いのです。勿論、男が読んでも染み入るものがありますが、この恋する男の奇妙な事実、是非女性にこそ読んで頂きたい。


作品情報

・題名:俺はその夜多くのことを学んだ
・著者:三谷幸喜
・絵:唐仁原教久
・出版:幻冬舎(1998年)
・ISBN:4877282556







 

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