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『点と線』
松本清長初の長編推理小説は、日本のミステリーの礎なり

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日本のみならず古今東西、優れた推理小説というものは、さまざまな理由から主人公たるキャラクター重視の話として展開されがちである。事実、「この名探偵が出ているなら見てみよう」と思う人も多いはずで、実に的確な方法論である。


『点と線』
新潮文庫
定価:税込515円
だが、日本の小説家・松本清長の初の長編推理小説『点と線』(1958)は、その方法論から、分かりやすくも堂々と逸脱している。事件を主役として話は進む。しかし、逆説的にかもしれないが、それがゆえに巧みな心理描写を宿していて、決して展開重視だけではない人間ドラマを介在させている。結局は、推理小説としては類まれな作品なのだ。

果たして、この小説が現代でも「名作」かどうかというのは、定かではない。情報が飽和している社会、何においても日進月歩で、つい5年前が、ラインもフェイスブックも(日本には)なかったというだけで、はるか昔のことに思えてしまう時代なのだ。小説の舞台は、新幹線も開通していない時代。どれだけの現代人がこの作品の世界に取り込まれ得るかは、残念ながら限りなく不透明である。

ならば推理小説としては価値が無いのか、と問えば無論、否。読めば一目瞭然なのだが、日本のミステリーの礎を築いたと語られるに相応しい物語は、さながら「日本の推理小説」の雛形。一度は読んでおくべき、いわゆる古典としての価値は今でも、いや、今だからこそ健在だ。現代の日本のミステリー小説のルーツ、ここにあり、なのである。映画で言えばヒッチコックの作品に近い。

タイトルは『点と線』。登場人物も事件も、すべては「点」に過ぎない。だが、それらを繋ぐ「線」が見つかった時、果てしなく物語性は広がり、我々にその存在を訴え掛けてくるのである。「なんだ、基本的なことじゃないか」そう思うのは正しい。そう、基本。時代性の齟齬などに負けないクオリティとブライオリティを備えた、日本のミステリーの基礎が、ここにあるのだ。


作品情報

・作者:松本清長
・出版:光文社(1958年)







 

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