『絶望を愛した38の症例(サンプル)』
詩人・森雪乃丞が織り成す、「絶望=人」への愛の詩
森雪乃丞。この人がもっとも有名なのは恐らく作詞家としてのフィールドでしょう。アニメ『キテレツ大百科』の「お料理行進曲」(あのコロッケのレシピを唄った歌です)や、『ドラゴンボールZ』の「CHA-LA HEAD-CHA-LA」、布袋寅泰の「スリル」(テレビでは江頭2:50が現れると必ずBGMとして掛かりますね)、他にパナソニック・グループの社歌なども手掛けた、当代きっての作詞家といえます。
『絶望を愛した38の症例(サンプル)』は、そんな彼のもう1つの顔、詩人としての側面を堪能するのに十分な、2003年発表の彼の詩集です。なぜ十分と断言し得るのか。それは、彼の「個人」としての顔がこの詩集からうかがえるから、です。
収録されている詩の中には、彼と付き合いのある桑田佳祐を特集した『別冊カドカワ桑田佳祐特集』へ寄稿したものや、1998年に急逝した、元X JAPANのギタリスト・hide(生前、森雪乃丞を師匠と慕っていたそうです)へデディケイトしたものも含まれています。
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『絶望を愛した38の症例(サンプル)』
森雪乃丞
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本来、ポップスのリリックなども含めてですが、詩というのはある種の匿名性を持っていなければ、読み手の心に伝わらないとされています。しかし今作においては、上記の詩などで限定的にですが「森雪乃丞」という個人を垣間見せているため、他の詩との連動・相乗効果で、より言葉がダイレクトに読み手の心へ伝わってきます。
構成も美しい。「目を醒ませ ここからが夢だ」という詩で幕を開ける、1枚のコンセプト・アルバムのような構成は、先述した効果をより高めており、内容も21世紀の日本という時代性を意識したもののため(そうでなければ詩の意味はないのですが)、現代に生きる我々が感じ入るところが多分にあります。人によっては、読後に涙を流されるかも知れません。
詩集というと、何処かとっつきにくいイメージをお持ちの方もいます。「どうせ使う言葉とかも、キザで浮世離れしたカンジなんだろう?ええ、おい!?」みたいな、ね。しかしそこはポップスという分野で作詞家として長年キャリアを積んできた森雪乃丞。「サトエリ」などという思いっきり現代的な言葉もさりげなく詩に盛り込んで、読む者を楽しませてくれます(「HEROの隠喩」より)。
作品情報
・作者:森雪乃丞
・出版:角川書店(2003)
・作者公式サイト:瞳を閉じて青空を見ろ
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