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『空が青いから白をえらんだのです』
奈良少年刑務所内受刑者たちの詩は、何を告発するのか

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残念ながら、と敢えて言わせて頂くが、日本の現代詩の多くには、個人的過ぎる言葉といおうか、単に自己の内面の告白文に終始してしまっているものが多過ぎるのだ。

詩は確かに個人の感性から生じる言葉ではある。だが、同時に社会との架け橋にもなる、いわば公器としての面も持っているのだ。詩として紡がれる言葉には、他者が読んでもちゃんと伝わるような社会性が、ある程度要されるはずだ。なのに、なんと日本の現代詩の個人的過ぎることか。茶番というか、詠み手の自己満足でしかない「つぶやき」と大差ない詩が多過ぎる。

しかし、単なる告白文たる詩にも、(一般にとって)必要性があるものもある。詠み手が一般人とかけ離れた存在である時だ。我々は、無意識に「一般的」なるカテゴリーを有して生きているが、その枠からハミ出した少数派は当然存在し、その少数派の独白には多数派への何らかの「告発」が自然と生じる。その様子は『空が青いから白をえらんだのです』にも見て取れよう。


『空が青いから白をえらんだのです』
詩:受刑者
編:寮美千子
定価:税抜1500円
詠み手は奈良少年刑務所の受刑者たち、その中でも自己表現が苦手な者たちがプログラムの一環で詩を書いた、それを編集・発行したものが本作にあたる。内容はいたってシンプルで、後悔や葛藤に苛まれた受刑者たちが恋人や親へと宛てた「キミとボク」を中心とした告白的な詩である。詠み手がどういう立場の人間なのかは注釈文が説明してくれているので、詩の内容もなんとか伝わってくる。

犯罪率がどういった推移を見せようと、日本に住む人々の多くは罪を犯すことなく、つまり刑務所とは縁遠く生きている(冤罪は限りなく近くにあるが)。では罪を犯してしまった人達とはどういった人達なのか。この詩集には、彼らが刑務所内で発した心の言葉が収められており、「一般的」とはかけ離れてしまった、その想いを読み取ることができる。

そして読んでみれば分かるはずだ。彼らと我々の間に差はほとんどないことが。我々はかろうじて、何とか「一般的」でいるだけなのだ、と。この『空が青いから白をえらんだのです』が告発するのは、我々の固定観念なのかも知れない。


作品情報

・作者:奈良少年刑務所内受刑者
・編集:寮美千子
・発行:長崎出版株式会社(2010)
・公式サイト:長崎出版株式会社







 

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