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■ 12月31日から1月30日にかけて、「一九九六年の音楽」をフィーチャーします。







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『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』
この人を食ったような表題は、じつは

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言われてみればもっともだよな。そう思うタイトルである。鳥類学者だからといって、鳥が三度の飯より好きってわけじゃないですよ。表題が告ぐのはそういう意味であろう。たしかに、たとえば人類学者だからといって、その人が人類を広く深く愛する博愛主義のヒューマニストなのかというと、そうとは限らないはずである。むしろ「日常生活ではできるだけ他人と関わりたくない」と思っている人類学者も(あるいは)いるかもしれない。

著者は東京大学農学部出の、いわゆる自然科学系の学者である。一九七三年に生まれた団塊ジュニア世代。文章を読むと、たしかに「同年代の数がめっぽう多い世代」の特徴が(それとなく)ある気がする。もちろん、だからと言って限られた世代間でしか通用しない偏狭な叙述が続いているなどではない。老人でも若者でも女性でも、本書を読み進めることはできるはずである(文体との相性については個人差でいろいろあろうが)。

先に書いたように、著者は東大出の農学者である。日本の一般的な価値観でいえば、「エリート学者」であろう。にもかかわらず、表題も文章もくだけている。それが良いのか悪いのかは分からないが、とりあえず「カタくない」という印象は受けるはずである。

テレビや新聞、雑誌、ネット上の匿名掲示板やSNSなど━━マスメディアが高度に発達した現代に私達は生きている。つまり、情報が大衆にスピーディーかつ広く共有されるのが当たり前になっている社会ということで、そこは望む望まずにかかわらず「大衆社会」の様相を呈してくる。

こうなってくると、ある種の人は大衆受けに重きを置くだろう。だから彼らは「バズる」を重要視する。彼らにとって「バズる」とか「炎上する」は、大衆の耳目を集めていることと同義なのである。それはテレビ局が視聴率を絶対視したり、出版社が重版決定を寿いだりするのと、基本的には大差ない。

かような時世下では、学者といえども象牙の塔にこもって「孤高の士」であることはなかなか許されない。自身の学術的営為を大衆にアピールして、支持を集めなくてはいけない。そうしないと、大学も研究機関も文部科学省もろくにカネを出してくれず、研究が進まないどころか、最悪食いはぐれる羽目になる(まぁ文科省が自らの有用性を大衆にうまくアピールできているかというと、甚だ疑問ではあるけど)。

つまり現代では、学者にも大衆に対するアピールやホスピタリティーが大なり小なり要求されるのであり、本書はそういう時代の産物だとも言える。二十世紀末には、学者は頭でっかちで気難しく、庶民には理解し難い術語を使う人種であるという通念があった。あの時代には、こんなタイトルの本を鳥類学者が出すなどは到底考えられなかったはずである。

本書は著者が新潮社の雑誌に連載していたエッセイをまとめたもので、刊行は二〇一七年春。このポップなタイトルが奏功したのか、本書はベストセラーになり、著者はその後も同社から「鳥類学者エッセイ」を数年おきに出す。

・『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(二〇一七)
・『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(二〇二一)
・『鳥類学者の半分は、鳥類学ではできてない』(二〇二五)

と、二〇二五年現在までに出ているのは以上の三点で、上の二点は新潮文庫版も出版されている。装画はいずれも北澤平祐が担当。あなたの町の図書館にもどれか一冊くらいは蔵されているのではなかろうか?

本書は「鳥類学者とはいかなるものか」を語るエッセイでもある一方、著者の半生記という側面も持つ。著者は子供の頃から鳥が好きだったなどではない。つまり本書は「著者はいかにして鳥類学者になったのか」を語るものでもあるわけで、その点でこの人を食ったような表題は、じつはうまく内容を表現しているのかもと思う。

最後に、個人的な感想を言う。私は著者よりおよそ一回り下の世代にあたる。その私にとって、著者の文章に出てくる面白要素は、正直厳しいものもある。おそらく著者は根が真面目な人なのだろう。だから「ここでちょっとスパイスを利かせよう」と思ってこれを書いたんだろうなと推察されてしまう箇所が、どうしても散見されるのである。そういう自然さを欠いたユーモアは、往々にして外れやすい。おっちゃん、すべっとんで。そう半畳を入れたくなるポイントもあったということである。まぁこれは世代というより、私が大阪生まれであるところが大きいのかもしれないが。

しかし自然科学系の学者が書いた文章に対して、「自然さの欠落」を云々するというのも、考えてみればなんだかヘンな気がしますね。

作品情報

・作者:川上和人
・絵:畠山モグ
・発行:新潮社





 

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