『ドラゴンボール』
鳥山明の描く、格闘マンガの日本代表作
江戸の世、人々にたいへんに親しまれた読本『南総里見八犬伝』をご存知だろうか。簡単にいうと、序章にて散らばった8つの玉を集めて勧善懲悪が施されるといった話なのだが(簡単過ぎるかもしれないが、ご容赦頂きたい)、現代の日本人がこのあらすじを聞いて思い浮かべるのは、この話ではなく別のマンガという人が圧倒的多数ではないだろうか。そう、鳥山明が1984年より10年余り連載を続けた『ドラゴンボール』を思い浮かべるという人が。
世界中に散らばった7つのドラゴンボールを全て集めると、いかなる願いも叶う。それを捜し世界中を流浪する野生少年・孫悟空と野心家の女の子・ブルマの冒険アクション・・・であったのだが、それはむしろこのマンガ全体の導入部分に過ぎない。徐々に物語は、強さを希求し続ける格闘マンガへと変容してゆく。もちろん、孫悟空とブルマのラブ・ロマンスなど皆無である。
実は、当初の冒険活劇の段階では、連載誌・週刊少年ジャンプの読者アンケートで人気最下位をマークするなど、読者からの反応は芳しくなかったのである。そこで、当時の担当編集者は、主人公が強くなっていく格闘マンガへの路線変更を決断。かくして、『ドラゴンボール』は少年ジャンプの歴史上でも有数の人気マンガへと昇りつめていった。
依然として、作品は超ヒットを記録中。『ドラゴンボール』のコミックスは国内のみならず全世界30カ国以上で、現在も好評発売中であり、人気は連載終了の1995年以降も沈静化することはなかった。例としてあげるなら、2008年4月にオリコンが国内で実施した「今までで1番面白かったTVアニメは?」なるアンケートの1位は本作であった、というように、世代を越えて愛され続けている稀有なマンガなのである。
作品全体を通じて、キャラクターたちの強さのインフレ現象が勢いよくあったり、絵がシンプルで分かりやすかったりなど、難解な要素がすくないため、小さな子供でも楽しめる作品である。もっとも、シンプルなことほど難しいのは自明の理であり、鳥山明の卓越した絵画センスによって、それらが実現していたことは、言わずもがなのことであるが。
そうはいっても、作者の鳥山明の当初描いていた構想とはまったく別物になったため、その疲労や葛藤は相当なものだったのだろう。『ドラゴンボール』以降、鳥山は現在に至るまで連載作品を持っていない。また、2009年には社会からの完全な引退を望んでいる旨を、週刊ヤングジャンプ誌上で告白している。
世代を、そして国境を越えて、多くの人の心を取り込み続ける快作『ドラゴンボール』。それは、作品中にも出て来る主人公の技の1つ「元気玉」のようであると言えるかもしれない。「元気玉」とは、人間のみならず様々な生物から少しずつエネルギーを頂戴し、1つに束ねて敵を倒す技のことである。
そしてその現象は、読者のみならずに、物語の創造主たる作者にも起こっていたのではないか。意図していようといまいと、優れた作品には作者の魂が宿るというが、『ドラゴンボール』にも同様のことが起こっていたのでは・・・と、考えられるのだ。いずれにしても、日本が誇る格闘マンガとして、当該作以上のものは存在しないわけだが。
作品情報
・作者:鳥山明
・出版:集英社
・連載期間:1984年12月~1995年6月

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