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■ 2月28日から3月30日にかけて、「靴」をフィーチャーします。







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『はいからさんが通る』
この大正ラヴコメは今でも通じるのか?

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先生(以下、S):こんにちは。二月上旬、日本各地が強い寒波に見舞われていましたが、大丈夫でしたか? というわけで、今回はアシスタント(=A)と一緒に「少女漫画」について述べていきます。どう? 雪の影響とか大丈夫だった?

A:私は特に影響なかったですね。電車の遅延とかはあったみたいですけど、それにも運良く当たらなかったし。ただ、ニュースであの大雪を地球温暖化のせいにしている人がいて、びびりましたけど。なんかね、温暖化で海面温度が上がって、それで出来た水蒸気が上空で雪雲になって、それが豪雪の原因って言ってたんですよ。いや、温暖化で雪雲が出来るんだったら、近年ロシアや北海道で言われてきた「温暖化のせいで昔と比べて雪が減った」は何だったんだよって話じゃないですか。あのへんは強力な寒気が毎年デフォなんだから辻褄が合わないだろって。いやぁ、ほとんどの識者は「気候変動」とパラフレーズして、地球温暖化とか言ってた過去をひっそり無かったことにしてると思ってたんで、久々にびっくりしました、先生。

S:地球温暖化ねぇ。まぁどこの世界でも、自分の昔の言動が過ちだったとは絶対認めたくない頑迷な人はいるでしょうね。二〇一八年に女性記者へのセクハラ発言で更迭された財務省の事務次官とか、あと今の兵庫県知事とかも、そんな感じじゃないですか。微温的に「地球が今、寒冷化しているのか温暖化しているのか、ぶっちゃけよく分かんないんですよね」って言えば楽だろうにと思うんだけど、そうでもないのかな? 閑話休題、今回は『はいからさんが通る』という少女漫画についてです。

A:南野陽子ですか、先生。

S:そりゃ映画だよ。ていうか、そんな映画知ってんの? あれって公開されたの、たしか一九八七年よ?

A:いや、観たことはないんですけど、ずっと前にテレビでマツコが南野陽子と対談してた時に、その映画のVTRがちらっと流れてましたから。つまり、あの映画の原作ってことですか、先生?



南野陽子「はいからさんが通る」
(映画『はいからさんが通る』主題歌)

S:まぁそうですね。南野陽子でいえば、彼女の初期の代表作には『はいからさんが通る』だけでなく、『スケバン刑事』もあって、これらはいずれも少女漫画を実写化したものなんですね。つまり南野陽子は「少女漫画のヒロイン」として昭和末期に世に出てきた人なんです。そういう実相は、単に当時の映像を振り返っただけでは見えにくいかもしれない。

A:なるほど。当時は「少女漫画の実写化」がトレンドだったとか、そういうことですか、先生?

S:まぁまぁ、先ずは『はいからさんが通る』の概要について簡潔に述べたいと思います。作者は札幌市出身の女性漫画家、大和和紀。この漢字で「やまとわき」と読みます。彼女は一九四八年三月生まれで、いわゆる「団塊の世代」に属する。漫画家としてデビューしたのは六〇年代後半。山岸凉子、里中満智子、大島弓子などの女性漫画家と同学年で、特に同じ北海道出身の山岸とは、上京後も一緒に銭湯に行くほどの仲だったと言われています。

A:当時は家やアパートにお風呂がないのが当たり前だったでしょうからね。いや、でもいずれも少女漫画の興隆期を支えたビッグ・ネームですよね。戦後の日本のサブカルって、団塊の世代というヴォリューム・ゾーンが大きく関与してのものだったんだなと、改めて思い知らされます、先生。

S:そうですね。その大和が、講談社の『週刊少女フレンド』という少女向け雑誌で一九七五年から七七年まで連載していたのが、『はいからさんが通る』です。この雑誌は九六年に廃刊となりましたが、同系列の『別冊フレンド』は二〇二五年現在も刊行されているので、知っている人も多いかもしれません。この『はいからさん~』は、一言でいうとラヴコメなんですけど、舞台は現代(昭和末期)ではなく、大正時代です。

A:二年ほどで連載が終わったってことは、七〇年代当時はそんなに人気じゃなかったんですか、先生?

S:いや、七七年に講談社漫画賞の少女部門を受賞しているし、翌七八年にはテレビ朝日系でアニメ化もされているから、当時からそこそこ人気はあったと思いますよ。七〇年代当時は、そもそも「漫画を長期連載する」という発想が今より希薄だったんじゃないですかね。あの『ガラスの仮面』だって、連載開始は本作と同じ七五年だし、『パタリロ!』も、スタートしたのは本作の連載が終わった翌年の七八年だし。

A:なるほど。でも後世の人間から見ると、南野陽子の実写映画版がひときわ印象深いというか、他のメディア版は今ではそんなに耳目を集めなくなった感があるんですけど、先生。

S:そうかもね。だからそれはやっぱりタイミングなんだと思うよ。さっきも言ったように、この物語は基本、大正時代のラヴコメなのね。花村紅緒というお転婆な女の子と、彼女の許嫁である軍人=伊集院忍との恋物語。舞台は大正デモクラシーの時代だから、男女平等が謳われて、いわゆる「職業婦人」とかが登場する時代。だから、そういうドラマが広く必要とされたのは、やっぱり七〇年代より八〇年代後半だったんじゃないかな。

A:一九八五年に男女雇用機会均等法が成立したからですか、先生?

S:あたりきしゃりき山椒の木。女性が男性と対等に生きるとは、どういうことなのか。そのロールモデルを当時、おそらく結構な数の少女が探していたと思いますから。あともう一つポイントになると思われるのは、実写映画版が公開されたのが一九八七年であることです。日本がいわゆる「バブル景気」に突入した年ですね。日本の近現代史は、多くの場合、大正デモクラシー期をほんの束の間の「明るい時代」としています。その後には暗く険しい時代がやってくる。それが一九八七年の時代性に重なっているように、私には思えるんですね。もちろん、バブルの時代が明るくて良い時代だったかどうかは、評価が分かれます。でも少なくとも今より巷に活気はあったんじゃないかと思うんですよね、良くも悪くも。

A:まぁバブル時代についてはたしかに賛否あるでしょうね。ただ、その伝でいうと、実写映画版はともかく、漫画版を読む意義が現代の人にはあまりなさそうに思えるんですけど、先生?

S:漫画に「読む意義」を求めるなんて、無粋に過ぎる気もするけどね。でもこの作品はさっきも言ったようにラヴコメ、つまりラヴ・コメディですから、笑いの要素が今でも通じるかは重要なポイントかもしれない。本作が発表されて早や半世紀。その「笑い」は、当世でどれくらい通用するのか。厳しいかなとも思うし、意外と通じるかもしれない。実際のところは分からないですね。そこは今の女子に問うてみたい気もするかな。

A:微温的なシメですね、先生。

作品情報

・作者:大和和紀
・発行:講談社





 

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