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『消えた少年』
「バーにいる探偵」シリーズの隠れた佳作

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このシリーズはおそらく小説より、主人公より、映画のイメージの方が圧倒的に強いはずだ。大多数の人は、「ススキノの便利屋」と聞いても首をかしげるだろう。しかし「あの大泉洋の、バーにいる探偵のやつ」と聞いたらうなずいてくれるのではないか、と。


北海道の繁華街のバーを根城にする、通称「ススキノの便利屋」である「俺」は、探偵と便利屋の間を行ったり来たりするようなうだつのあがらない28歳の男。そんな「俺」は行きつけのバーで依頼の電話を受ける。「俺」の仕事は、大抵が客のツケを回収したりするようなものだが、それが難事件へと連鎖してしまうのは、嵐を呼ぶツバメというべきか、運が悪いというべきか・・・

以上が「バーにいる探偵」シリーズの概要だが、ひとまず断っておきたいのは、大泉洋が演じ人気を博した映画の『探偵はBARにいる』は、小説版では第2作の『バーにかかってきた電話』に相当するということ。また、シリーズ物にありがちなことだが、えてして第1作目はエンジンがかかりきっていない状態、つまり基本設定と物語が噛みあいきっていない状態が多い。したがって、このシリーズの1作目は、基本的にはオススメできない。

では大泉洋の映画を観て、「あ、こういう小説があるんだ。本の方も見てみようかな」と思った人は、どこから手を付けるべきか。言わずもがな、3作目が吉である。すなわち、『消えた少年』だ。

あらすじは、『バーにかかってきた電話』からビミョーに繋がっている。前作で、困ったことがあったら電話しろ、と「俺」がある女性に、例によっていきつけのバーの電話番号を教えたが、今回はその女性(教師)がキーになる。彼女の教え子である、少しヒネた少年が失踪したという。そして「俺」はその捜索を依頼されるが・・・


今作も、「俺」をはじめとするアクの強いキャラクターたちが活躍するが、なんといってもテンポが良い。作者・東直己と「バーにいる探偵」の世界観との関係が著しく緊密になってきたのが、3作目にして分かる。ハードボイルドではありながらだらしない酒飲みのお調子者の「俺」がいきいきとしている。自由度が増している。エンジン全開になってきた、というところか。

それにしてもハードボイルドものだからか、はたまた作者も主人公も飲ん兵衛だからか、やたら洋酒が恋しくなる小説である。


作品情報

・作者: 東直己
・発行: 早川書房(1994年)







 

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