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『喜劇新思想大系』
そして山上たつひこは『がきデカ』に向かう

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『がきデカ』の山上たつひこ、といえば、赤塚不二夫などと並ぶ形で「現代のギャグまんがの祖」など評される漫画家です。若い方にはもしかしたら馴染みがないかもしれませんが、『うる星やつら』の高橋留美子が「影響を受けた」と語ったように、『こち亀』の秋本治が初期ペンネームに山上たつひこをもじった「山止たつひこ」を採用していたように、また、歌手のaikoが2011年にファンからの「好きな刑事は?」との質問に「がきデカ」などと答えたように、現在においても決してその影響度は軽くはない存在なのです。

では、山上たつひこはどうやってそこまで傑出したギャグまんがを『がきデカ』にて構築し得たのか。『がきデカ』以前の彼は、たとえば『光る風』を見てもお分かりのように、どちらかというとシリアス路線の人だったのです。ちなみに『光る風』は、自前の軍隊を装備し、海外へ派兵することになる近未来の日本を舞台にした物語です。

結論から言いましょう。『光る風』と『がきデカ』の間に『喜劇新思想大系』というブリッジが存在したからこそ、山上は確固たるギャグまんがの様式を確立できたのです。




当然、『喜劇新思想大系』はギャグまんがなのですが、このカタいタイトルからは想像できないほど、ハードでエログロな内容です。作者自身、今作の内容を薄めにして読みやすくしたのが『がきデカ』だと語っていたほどの作品です。日本が誇る、濃密かつ重厚なギャグといえます。

主人公は22歳の逆向春助。彼は定職になど就かずに、精液で作ったノリなどいかがわしいものを売って、暮らしています。山上と言えば、まんがの中での「ボケとツッコミ」を創立した作家として有名です。今作のツッコミ役は隅田川乱一ですが、彼からして犬猫を切り刻むのが趣味というのですから、『喜劇新思想大系』とはいかなるものか、想像に難くないでしょう。

連載は1972年から1974年にかけて、ですから、まさに日本のまんがの確立期でもあります。内容は時代を感じさせるものも多少ありますが、不変的なセックスや恋愛を物語の基軸としているため、現在でも十分に通用します。『がきデカ』という不朽の名作が産まれる前段階のきらめき。山上が「青春の残り香」とも評する今作は、それをまとった影の名作足り得ましょうか。


作品情報

・作者:山上たつひこ
・出版:双葉社(完全版コミックスはフリースタイルより発売)
・連載期間:1972年7月~1974年2月







 

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