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『散歩』
小林聡美×7人の人々

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女性がホストを務める(女性だからホステスですね)対談を読む場合、往々にしてそこで語られる「内容」には、さほど注意を払わない。あくまで個人的な風儀ですが、私はそうすることにしています。だって、たぶんだけど、内容は副次的なものというか、そんなに重要じゃないと思うから。

女優の小林聡美さんが、ご自身とお付き合いのある7人の方々と、東京を散歩しながら交わした対談をまとめた『散歩』を読みました。対談の相手は森下圭子、石田ゆり子、井上陽水、加瀬亮、飯島奈美、もたいまさこ、柳家小三治、の7名(掲載順、敬称略)。2013年に幻冬舎より刊行され、のち2015年には同社より文庫で出ています。

はっきり申し上げて、私は小林聡美さんという女優を知りません。ドラマや演劇を観る習慣があまりありませんし、私が観る映画には(偶然でしょうけど)彼女はことごとく出演していなかった。ではなぜ『散歩』を手にとったのか。井上陽水(歌手)が対談で参加していることを何かのはずみで知ったからです。彼の音楽を愛聴する身として、そのテキストを読んでおきたいな、と思ったから。それだけです。陽水さんが女性と対談し、それが活字化されているというのは、結構珍しいことですからね。

だからまず陽水さんのページを読みました。というか、彼以外の6人について私は(小林聡美さんについてと同様に)何も知らない。もたいまさこさんは、お名前だけは『ボキャ天』で聞いたことはありましたが、人物像はないに等しかった。こんな人だったんですね。本の末尾に、対談相手それぞれと小林さんが散歩されている写真が収録されているのですが、そこを見ても、石田ゆり子さんって綺麗な人だなぁ、くらいしか思い当たらなかった。そんな読者なのです。ははは。

そんな人間だからか、本書を読んでも、内容がさっぱり入ってこないのです。もし「内容」が一番重要だというなら、読むだけ時間の空費だった、と言って差し支えはないでしょう。

そもそも東京という「ローカル」が舞台ですから、大阪府民である私には対談に出てくる施設や地名が皆目わからないんですよね。なんですか、スカイライナーって。恵比寿と駒沢公園の位置関係なんて、関西人にはわかりませんよ。注釈もなければ、東京の地図も封入されていないし。つまり本としての設計がまるで雑なんです。はっきり言って。たぶんこれを作った人は、四国や九州、西日本の住人なんて、はなから読者に想定していないのでしょう。

だから(冒頭で述べたような)内容を重視しない読み方にシフトしてみます。するとまた少し違うものが見えてきます。

私は男性なので想像するしかありませんが、多くの女性にとって対談で重要なのは、「what」(内容)ではなく、「how」なのではないでしょうか。その対談がどういった雰囲気で行われ、またどういうふうに会話が推移したのか。

言い換えれば、対談そのものの雰囲気やヴァイブスがおおむね良好であれば、その俎上に上がる話題や結論は二の次というか、どうでもいい。会話が楽しく運べれば、テーマなんて「健康」でも「職業上のあれこれ」でも「思い出話」でも何でもいい。それが多くの女性にとっての「会話」の流儀なのではないかと愚考しています。てんで的外れかもしれないんですが。

だから女性がホステスを務める対談を読むにあたっては、その「内容」には、さほど注意を払わないようにしているんです。たぶん、重心はそこに置かれていないから。

それで言えば、本書は小林さんのお人柄(なんでしょうね)がよく出ている、雰囲気の良い対談本だと思います。朗らかで気遣いを忘れない。そんな感じ。そして小林さんがゲストやカメラマンとテクテク散歩している、その「空気」が読んで伝わってくる。たぶん読者の中には、小林さんやゲストと一緒に散歩をしているような気がする人もいるのではないでしょうか。そういう「空気」を読み、楽しむ本なのかもしれません。もちろん読み方なんて人それぞれなんですが、あくまでも個人的意見として。

作品情報

・著者:小林聡美
・出版社:幻冬舎





 

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