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『めぞん一刻』
すべての男と女の恋愛ユートピア、ここにあり

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1980年、「漫画の怪物」と称される女流漫画家、高橋留美子は、『めぞん一刻』の連載を開始した。そもそも高橋留美子は何故「漫画の怪物」と称されるのか? それは彼女の発表する漫画がことごとく人気を獲得しアニメ化される、それが1980年代、1990年代、2000年代と30年に渡って行われているからである。競争の激しい日本の漫画業界において、かようなヒット作をそんなに長い間連発するのは、並の作家には出来ないことなのだ。


『めぞん一刻』は、そんな高橋留美子の履歴の中でも初期の作品に位置する。そういうと古臭い未熟な作品と取られるかもしれないが、それは大きな間違いだ。ややもすると、漫画であれ音楽であれ、作家の個性とは初期の作品にこそ顕著なのだ。『めぞん一刻』はまさしく、後の作品にも通ずるが、この頃でないと描けなかったであろうエッセンスが凝縮された、高橋作品の中でもとりわけてオススメの作品と言えよう。

内容は、大学受験に失敗して浪人生活を送ることになった五代裕作(ごだい ゆうさく)と、彼が住むアパートの管理人・音無響子(おとなし きょうこ)を中心としたラヴ・ストーリー。青年漫画であるため、いわゆる「手を繋ぐのが精一杯の恋愛」の話ではないが、品を失わず極めて純朴に紡がれる物語は、現在も読み手に心地好さを感じさせてくれる。

五代は少し年上の美人管理人・音無に魅力を感じるが、優柔不断な性格ゆえに言い出せないまま、時が過ぎる。音無はというと、そんな五代の気持ちに気付きつつもするりとかわしてゆく。そのうちに、音無が通うテニス・クラブのコーチである三鷹という音無よりも年上の男性が、音無に好意を寄せてゆく。かくして、ねじれた恋模様が展開されるうちに、2人は音無の過去を知ってゆく。


漫画自体も面白いのだが、この恋物語を読んで今でも感心せざるを得ないのが、音無響子の「大人の女の作法」である。作者が女性と言うのもあるだろうが、音無の恋における「演出」は現代でも充分に魅力的に映る。男の手が届きそうで届かない、男に心を見せるようで見せない。それなのに嫌味や魔性など微塵も感じさせないのだ。作中のキャラクターたちはもちろん、現実の読者すら、彼女の振る舞いには気持ちよく懐柔させられてしまうだろう。

本作は、恋愛や男女関係に身を置くすべての人にとって必読の書と形容できる。こと現代においても、それは揺るがない。


作品情報

・作者:高橋留美子
・出版:小学館
・連載期間:1980年10月~1987年4月





 

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