『もやしもん』
菌と人間を描く、ほのぼの農大物語
ギャグまんがにおいては、ネタや絵柄もさることながら、ひとえにそのキャラクターが重要だ。主要キャラクターの方向性がそのままマンガ上におけるギャグの方向性に直結するからだ。そのため、同業他者との差別化を図らんと、日本のギャグまんがには、実に多種多様なキャラクターが登場する。
それを知ったうえでも、「遂にここまで来たか!」と思ってしまったマンガが存在した。石川雅之の『もやしもん』だ。
なんと『もやしもん』の主役は菌なのである。一応、菌を見る能力を持った農大生、沢木惣右衛門直保が主人公という設定だが、物語を読んでみれば一目瞭然。主役は菌だ。
これがアメコミなら、菌が見える少年が、菌と意思疎通し、魔法みたいな力を手にして活躍する・・・といった感じになるのだろうが、あなどりがたいのは、日本のマンガの土壌の豊かさ。この物語は、彼らが農大で過ごす一年間を描いて完結する。そこにはスパイダーマンみたいな痛快アクションもなければ、バットマンのようなハード・サスペンスもない。しかし面白い。
菌が見えるという特殊能力は、食中毒を回避したり出来るわけだから、衛生学・農学上では大変貴重な能力だ。そして、実際にはおぞましいはずの菌たちは、この作品ではユーモラスかつキュートに描かれている。読者はきっと、「こんな菌なら、見てみたい」と思ってしまうだろう。
また、農学を通じて知り得る日本酒醸造における知識も、ギャグを交えながら、柔和にマンガの世界を通して学べる。逆に言えば、「雑学を語りたいマンガなのか、ギャグまんがなのか、どっちかハッキリしやがれっ」という、白黒つけたがる人には、恐らく不向きなのだろうが。
『もやしもん』のこだわりは単行本にも表れている。例えば、1巻では、帯は古紙再生紙であり、インクは大豆由来のものを使用、など。各巻ごとにこだわりがあるので、コレクター泣かせであることは確かだが、物語同様、読者が楽しめる工夫に満ちていることもまた事実なのだ。
作品情報
・作者:石川雅之
・出版:講談社
・連載期間:2004年8月~2014年2月
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