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『ダイエットただいま全敗中!!』
ざしきぶたシスターズはダイエットの夢を見るか

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室山まゆみという名前に心当たりがない。そんな人でも、『あさりちゃん』の作者だと言えば、通じるかもしれない。作者より作品の方が有名、その好例であろう。それで何も問題はない。ちなみに「室山まゆみ」というのは、室山眞弓、眞里子姉妹の合同ペンネームである。

『ダイエットただいま全敗中!!』は、彼女たちが1999年に上梓したエッセイである。読んで字の如く、彼女たちがその半生で挑んできたさまざまなダイエットの奮闘記である。表紙には『あさりちゃん』の主人公、浜野あさりと、豚に扮した室山姉妹が描かれている。本書で彼女たちは自らを「ざしきぶた」と表現している。それを絵にした、ということであろう。また本書には一部、漫画も収録されているが、おおむね活字である。ために浜野あさりは出てこない。念のため。

ダイエットとは女性が見る夢の一種である。私はそう思っている。たまに男性でもその夢を見ることがあるかもしれないが、そこまでは知らない。ともあれ、夢だからこそ、あれだけいろいろと方法が喧伝されているのである。いわばテーマパークみたいなもので、そこで女性は細身の自分を夢想する。それが肝心なのである。だから「このダイエットには効果がない」「やせたきゃ食う量を減らして運動すりゃいいじゃねえか」などと告げるのは野暮である。別言すれば、夢がない。そんな諫言をダイエットをしようという女性に告げたところで、無視されるか、「黙ってろ外野!」と言われるだけであろう。

「夢とは失礼な。私にはやせなきゃならない、切実な事情があるんだ」。そう言う女性もいると思う。ただしそういう人はだいたい減量できる。切実な目的意識があれば、体重を減らすのは(短期的には)さほど難しくない。実際、本書でも室山姉妹が減量した例はいくつかあるが、「やせて〇〇するんだ」という現実的な目標や必要がある場合には、そのダイエットは成功している。でもだいたいの場合には、やせてどうなるのかという具体的な目標はない。だから夢なのである。

「女っちゅうのはな、夢と希望で生きてんねやないか」。ドラマ『恋のバカンス』で明石家さんまが坂上忍に恋愛上のことで忠告していた、そのときのセリフである。女性は男性よりも現実的と、よく言われる。けれど実際、女性には生理や日焼け対策、外反母趾、化粧など、男性にはないさまざまな煩瑣が日常的につきまとう。だからこそ(比較的)男性よりも現実的にならざるを得ないわけで、その分、エネルギーとして夢や希望が必要なのかもしれない。

室山姉妹も、ダイエットという夢を見た。その記録が本書なのである。それに何の有用性があるか。そんなのは読者が自分で考えればよろしい。別に本書はマニュアル本というわけではない。

個人的な感想を言うと、私が読んでいて唸ったのは、彼女たちの文体である。彼女たちは漫画家であって文筆家ではない。だから文章に関しては素人に近いだろう。そう思って読んでみたら、これが上手なのである。「自分の文体」というものを持っている。しかもそれが面白い。編集者の腕もあろうが、文章の構成やテンポがしっかりしている。これは『あさりちゃん』の連載で体得されたセンスなのか、あるいは天性のものなのか、それはわからない。ともあれ、感服しました。

作品情報

・著者:室山まゆみ
・発行:小学館
・室山まゆみ(眞里子)先生へのインタビューはこちら






 

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