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『新続古今和歌集』
もしくは日本の中近世の政治史

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『新続古今和歌集』と書いて「しんしょく・こきんわかしゅう」と読む。こう断らないといけないくらい、この歌集に接したことがある人は少ないだろう。いや、読者の文化的知性を侮っているわけではない。私自身、学生時代にこの歌集について習った覚えが皆目ないからである。

歴史や和歌にいくらか興味のある人なら、『古今和歌集』が日本で初めての勅撰和歌集(=皇族の命令で公的事業として編纂された和歌集)であることは先刻ご承知であろう。しかし、では日本で最後の勅撰和歌集は、となると大半の人が知らないはずである。そしてもちろん、ご賢察のように、この『新続古今和歌集』が、その「日本で最後の勅撰和歌集」にあたる。

『新続古今和歌集』の成立は15世紀半ば、西暦でいうと1439年と言われている。室町時代。まだ武田信玄も織田信長も生まれていないし、応仁の乱も起きていない。この最後の勅撰和歌集は、時の帝、後花園天皇の勅命を受け、飛鳥井雅世という公卿(上級官僚)が中心となって編纂された。

と、この「後花園天皇」や「飛鳥井雅世」が、そもそもそんなに世間に知られていないと思う。多くの人は「誰やねんそれ」であろう。聞いたことないですけど、みたいな。だから私の話は「なぜ『新続古今和歌集』とその編纂に関与した人達は、ここまで歴史に埋もれているのか」に向かう。

天皇や公卿は朝廷に属する貴族エリートである。今でいう霞ヶ関の官僚みたいなもので、彼らは平安時代には国を統治する「雲上人」として君臨していた。その実情は、貴族は政治も外交も「どうでもいい」と放置し、自分達の栄華と人事と色恋だけに耽溺して、勢い、一般の民衆の多くは今日の食事にもろくにありつけない様相を呈する、衆愚政治の極致みたいなものであった。

だから、武士(当時の下級役人)の中から反乱が起こる。もうあんなバカ貴族に政治を任せちゃおけねぇ。俺らで新しい政府を作って、俺らは俺らで自活していこうぜ、と。それで朝廷に代わる「幕府」が作られた。そうして鎌倉時代が始まり、貴族エリートに代わって武士が世を統べるようになる。幕府の代表者は「将軍」と呼ばれた。しかし、武士というのは本質的に「力にものを言わせるヤクザ」みたいなものだから、ここには当然のように跡目争いや下剋上が頻発して、政権が安定しない。幕府の将軍はいざこざでしょっちゅう代替わりすることになる。

それでも、民衆は「朝廷より幕府の方がなんぼかマシだ」と判断した。よって鎌倉時代以降、幕府がある鎌倉には人が流れ込んで繁昌し、朝廷があった京都は人口が減って没落することになる。これを気に入らなかったのが当時の朝廷のトップ後鳥羽上皇で、1221年、彼は挙兵して幕府に戦争をふっかける。世に言う承久の乱である(今の受験生も「ワン・ツー・ツー・ワン承久の乱」と覚えたりするのだろうか)。結果はもちろん、後鳥羽上皇の敗け。霞ヶ関の官僚がヤクザの組員と暴力で争って勝てるものか、ということで後鳥羽上皇はあえなく島流しに処された。

日本史の不思議は、ここまでケチョンケチョンにされてもなお朝廷が存続したことである。この内戦以降、朝廷は「形だけの機関」として京都でひっそりと存在し続ける。実質的に日本を統べるのは幕府で、14世紀にはその鎌倉幕府も、いざこざの余り潰れた。倒幕後、約3年間の「建武の新政」を経て、室町幕府が新設。相変わらずの「ヤクザの縄張り争い」を伴う幕府による政治は続いて、その不安定さが後に群雄割拠の戦国時代を到来させる。その間、朝廷は京都にひたすら引きこもり「象牙の塔」であり続けた。この「朝廷と幕府」というダブル・スタンダード体制は、その後、江戸時代の終わりまで続き、その長い間、朝廷はずっと「君臨すれども統治せず」だったのである。

言い換えれば、朝廷やそれに属する貴族(天皇を含む)は、室町時代から江戸時代の終わりまで、ずっと歴史の表舞台に立たなかった。立たなかったのか、立てなかったのかは知らないが、彼らは何百年も日陰の存在であり続け、象牙の塔にこもりっ放しだったのである。

『新続古今和歌集』は、そういう朝廷の引きこもり期間に、天皇と貴族が編み上げた歌集である。歴史に埋もれるのは仕方がない。それくらい朝廷の権威は失墜していて、だからこれ以降、勅撰和歌集は作られなかった。ただ、そうかと言ってこの歌集に蔵された歌が「埋もれても仕方ないようなもの」なのかは分からない。それは読み手の裁量次第であろう。同歌集は、2001年に明治書院が出したものが(今の所)流通している。

作品情報

・撰者:飛鳥井雅世、他
・発行:明治書院、他





 

『伊勢物語』
日本で初めての歌物語

『新古今和歌集』
後鳥羽上皇(法皇)による勅撰和歌集