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『白い巨塔』
日本の医局界における人間ドラマの最高傑作

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『白い巨塔』
新潮文庫
フィクションの大きな役割のひとつに「告発」というものがあるとするなら、この小説ほどその役目を全うしているものもあるまい。山崎豊子が1960年代の日本に放った長編小説・『白い巨塔』(1965)である。

物語は、大阪大学をモデルとした浪速大学に勤務する外科助教授・財前五郎と同大学の内科助教授・里見脩二を中心として進む。

赤貧の出自を持ちながらも、その神がかり的なメスさばきから自他共に認める浪速大学外科のホープとなった財前五郎。彼は入りムコの立場に劣等感を抱えたり、故郷に残した母を案じたりしながらも、立身出世の道を脇目もふらずに走り続ける。

一方、出世欲や野心とは縁遠く、患者第一の研究を身上とする清貧内科医・里見脩二。彼らはそれぞれの信念に揺られながら、「患者と医師」の関係を基軸に成立するはずの医局界で、それを無視した権力闘争の巨大な渦に呑み込まれてゆく。


『白い巨塔』(映画版)
デジタルリマスターDVD
出演:田宮二郎 他
よく「医療業界の暗部に切り込んだ社会派小説」などと云われ、それがゆえに敬遠する方もいる『白い巨塔』だが、それは間違ってはいないが正しくもない。

確かに医局の腐敗を描いてはいる。しかも説明臭くなく、ごく自然に。だが焦点はそこではない。財前と里見、この2人の勤務医である。一般的な常識に属する里見と、医局の常識に属する財前。相反するこの2つのキャラクターが、それぞれの信じる道を邁進しながら、ドラマを築き上げるのだ。

患者のみならず、医師たちもまた「医局のしきたり」の被害者に成り得るという、『白い巨塔』が示す「告発」は、現代においても必ずや読む者の心を揺さぶろう。

大阪出身であることから、神戸銀行(現在の三井住友銀行)の実態をモデルとした『華麗なる一族』など、関西の風俗に根ざした作品を多く発表してきた山崎の、表玄関たる堂々の名作である。


作品情報

・作者:山崎豊子
・出版:新潮社(1965年)







 

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