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『昭和天皇独白録』
「昭和天皇」って、どんな人だったの?

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先生(以下:S):というわけで、アシスタント=Aと、今回は『昭和天皇独白録』について。

A:昭和天皇が側近たちと戦前・戦中について語られた「独白」を、当時の昭和天皇の通訳を手掛けていた寺崎英成が文章化したものですか。まぁ伝記と言えば伝記かもしれませんね、先生。


S:何より昭和天皇という人物像がよく分かるのが、やはり素晴らしいなと。昨年(2016年)の今上天皇による、テレビを介した国民への呼びかけでも思ったけど、日本人として普通に生活していると、天皇陛下なんて非日常の存在なわけだよ。まして昭和天皇などは、今ではもう遠すぎる存在だよね。それがこの独白録により、実在感を持つという。

A:実際読んでみると、かなり聡明というか冷静な方ですよね。あの戦争に際しても滅茶苦茶クールというか、民衆や軍部が「一億総玉砕」という熱狂の渦中にあったであろう状態とは対照的な感じがしました。

S:民衆の場合は、戦争に反対すると特高に半殺しにされるってのもあったとは思う。ともあれ、この独白録を読んで思うのは、やはり精神やイデオロギーで物事をすすめちゃダメだということ。昭和天皇は敗戦の原因のひとつとして「余りに精神に重きを置き過ぎて科学の力を軽視した事」を揚げられたけど、これは本当だと思う。あの戦争も政治や精神、イデオロギーで語られちゃうから収拾がつかないし、総括もされない。モノで語ればシンプルな話なんだよ。

A:と、言いますと?

S:「日米戦争は油で始まり油で終った」(※)とあったでしょ。対米戦争は石油を巡っての、つまり今日まで続くエネルギー問題に端を発した戦争だったんだよ。ところが軍人たちが権力欲しさに、戦争に勝つことを目的化してしまった。戦勝となれば爵位をゲットできたからね。でもさ、それで勝てるわけがない。日本には石油の備蓄がそんなに無く、アメリカにはたんまりあったんだから。

A:確か2年分くらいしか備蓄が無かったとか。軍艦も戦闘機も、みんな石油あってのものですからね。

S:日本では石油が出ないからインドネシアに行きました。それを日本に持ち帰るにあたって、当時その領域の制海権を抑えていたイギリス東洋艦隊(@シンガポール)とアメリカ太平洋艦隊(@真珠湾)を、どうにかしなきゃいけなかったから、ケンカを売った。そこまでは解る。問題はそこから。本当はそこで対外交渉に入るべきだったんじゃないかな。

A:「領土を返すから代わりに石油を売ってくれ」と?

S:三国同盟もあったから、それでどうなったかは判らないけど、日米共に、犠牲者は少なく済んだはず。だって神風特攻なんて、石油を手に入れる手段としては意味不明だもの。当時の軍部は、明らかに獲得目標を見失っていたんだよ。同時並行で日中戦争(支那事変)もあったわけだから、そんな状態でどうやって勝つのって話だよ。

A:軍部の失策に尽きると?

S:もちろん軍部と言ったって、一括りにはできない。東条英機なんかは昭和天皇も評価されているからね。それにしても敗戦の原因のひとつに揚げられている「陸海軍の不一致」って、未だにこれ、日本の縦割り行政に通じるよね。組織同士の不協和って、日本の国民病なのかな?

A:そろそろ総括をお願いします、先生。

S:国民が天皇を知る、天皇というポジションと世間や時代との距離感を知る、それらにおいて極めて有用な書だと思うよ。個人によっては天皇制に賛成や反対もあるだろうけど、そんなイデオロギーじゃなく、実際の「モノ」で確かめてみませんかと。あと、あの戦争を知りたい人にも良いと思う。当時の空気が凄くシンプルに伝わってくるから。


※原文は以下の通り
「尚この際附言するが日米戦争は油で始まり油で終つた様なものであるが、開戦前の日米交渉時代に若し日独連盟がなかつたら米国は安心して日本に油を呉れたかも知れぬが(後略)」


作品情報

・著者: 寺崎英成、マリコ・テラサキ・ミラー
・発行: 文藝春秋







 

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