「寝ていても金が入ってくるから、のんべんだらりと裕福な生活をして」だとか、「この世界が滅んで、私と気になるあの人しか生き残ってなくて、それで」だとか、人の脳内から消えることのない、永久のいとなみ、それが妄想だ。妄想なくして、我々に豊かな人生などない、とは過言ではあるまい。過言かもしれないが、そんなことはどうでもいい。
そんな妄想をあほらしいまでにとことん突き詰めた漫画が、コミックス売上が累計1500万部以上という、江川達也の代表作でもある『東京大学物語』だ。
タイトルには東大とあるが、そんなものは物語とはあまり関係ない。主人公・村上直樹は、頭脳明晰、運動神経ヨシ、ルックスもヨシの高校生。しかしここで「ああ、だからそいつが東大に行くの」と思われる方は、妄想力が足りない。何より彼がずば抜けているのは、その性欲と妄想パワーなのだ。したがって、彼は東大に落ちる。
「おいおい、それじゃあ話として破たんしてね?」と思われる方は、これまた想像力が足りない。高校生である。大学なんて、行ったこともないわけだから、どこか遠い世界の幻影なのである。そんなものより、目の前に歴然として存在する美少女のほうに、どうやったって心は奪われる。村上もそうだった。