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近所に蔦屋書店があるので行ってみました。少年向けコミックのコーナーには藤田和日郎の最新作『双亡亭壊すべし』があります。それはいいんです。問題は、その横に『うしおととら』のコミックスほぼ全巻(全33巻)がズラッと並んでいることですよ。ご丁寧に、外伝までありました。
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なぜ藤田和日郎の『うしとら』は、彼の後発の作品よりも長く、広く愛されているのでしょうか。端的に言えば、面白いからです。でなきゃ増刷されませんわね。でも、その面白さは奈辺に由来するのか。
このお話は、蒼月潮の中学二年生としての1年間を描いたものです。終盤にて彼は中三になるのですが、皆さんご経験の通り、そこには挫折もあれば成長もあります。たいせつな時期です。で、ここで仮説なんですが、潮の歩みと作者の成長は相関的なものであった、それゆえのリアリティが作品に宿った、とは考えられないでしょうか。
どういうことか。この物語は、4巻くらいまでは、だいたい東京都内でしょうか、舞台の範囲が狭いのです。せいぜい「町のオカルト何でも屋」といった趣なんですね。中学二年生が主人公なので、無理もありません。ところが4巻以降、舞台が急激に広がるのです。東北、そして北海道へと延びてゆく。物語の射程範囲がダイナミックに広がってゆくのです。
これは作者、藤田和日郎の世界が広がってゆく過程でもあったのではないか。そう思います。今作は彼の連載作家としての処女作です。駆け出しの若手作家にとっては、執筆現場である東京近辺が世界の過半でしょう。編集部員以外、誰がおれのマンガなんか読んでいるのかと思うはずです。ところが連載が進むにつれ、読者から反応が来る。来たと思います。でなきゃ打ち切りですから。日本のあちこちに、おれのマンガを読む人たちが紛れもなくいる。千葉、北海道、長野、沖縄、岩手、広島、至る所に読者がいる。藤田さんにはその手応えがあったはずです。それは作者の世界の拡張へと繋がり、同時に物語の世界をも拡大させたのではないか。
『かくしごと』5巻で、久米田さんは藤田さんを「パーティーを楽しみにしている作家」に分類している節がありました。もしこれが本当なら、藤田和日郎という人は村上春樹の修辞で言う「自開症」に近い所があるのかもしれない。実際にお会いした印象でも、オープンな人だなという気はしました。
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『うしおととら』は、物語やキャラクター云々ではない、藤田和日郎本人のビルドゥングスロマンをも包含しているのではないか、と。