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『UTOPIA 最後の世界大戦』
藤子不二雄の原点である、サイエンス・フィクション

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『ドラえもん』『キテレツ大百科』『パーマン』などで知られる藤子・F・不二雄。『怪物くん』『笑ゥせぇるすまん』『プロゴルファー猿』などで知られる藤子不二雄Ⓐ。そんな2人の巨匠がかつて共同で漫画を書いていた時に使っていたペンネームが「藤子不二雄」であった。だが、本当の意味でのこの2人の共著となると、10作前後と作品数はそんなに多くない。


そんな「藤子不二雄」の作品群の中でも極めて重要な位置に属する作品が、『UTOPIA 最後の世界大戦』(1953)だろう。これは2人がまだ駆け出しの頃、初めて単行本化された記念すべき作品なのだ。ちなみに、この時のペンネームは「藤子不二雄」ではなく「足塚不二雄」。2人の憧れであり、単行本化にも尽力してくれた漫画の神様・手塚治虫の足元にでも及びたいから、という願いが込められたペンネームだったのだとか。

だが、当時刊行された単行本の表紙は他の作家によるものであったり、他の作者の作品も収録されたり、駆け出しの作家に対する処置としては止むを得なかったというのもあろうが、純然たる「藤子不二雄の作品」とは言いがたいポイントも見受けられる。

さて、肝心の内容はいうと、戦争と科学至上主義への懐疑を含めた風刺漫画であり、その後の2人の作風にも通ずるものがある。むしろ、本作を発展させたものが、以降の2人の作品なのではないか、とすら考えさせられてしまう。

時は21世紀。第三次世界大戦が勃発し、戦争に反対したある男は死刑囚として収監されていた。悲しいことに、科学技術の発達はそのまま戦争兵器の発達を意味しており、世界的に生物という生物が戦災を被ることとなった。人類は、絶滅寸前になっていたのだ。たまたまシェルターの実験台に選定されていた上記の死刑囚とその息子は、幸運にもその難を逃れていた。


やがて少年が眠りから目覚めると、死刑囚である彼の父は動かなくなっていた。そこで、シェルターの外界はどうなっているのかと外へ出ると、戦争は収束しており、高度に発達した機械技術がすべてを管理する世界が少年の眼前にあった。

この本が上梓された3年後、経済白書に「もはや戦後ではない」と書かれたが、つまりこの世界は戦争からの復興途上の時代に描かれたのだ。そこには、日本人が辿ってきた資本経済と科学の発達のみを軸とした「戦争からの復興」への疑念も込められている。

文明の進歩は、人間の進歩にはつながらないのか? 「管理する側」と「管理される側」に分かれることでしか、人々は繁栄出来ないのか? 科学は何のためにあるのか? 人と機械の違いを尊ぶ世界はありえないのか? 画力こそ若々しいものであるが、根底に流れるテーマは現代社会に生きる人々にこそ読まれるに相応しい、壮絶なる問題作である。


作品情報

・作者:藤子不二雄(足塚不二雄)
・出版:鶴書房(現在は小学館)
・上梓:1953年





 

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