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■ 3月31日から4月29日にかけて、時計をフィーチャーいたします。







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明治神宮
及び、大正時代より遺贈された「永遠の杜」について

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皆さん、あけましておめでとうございます。初詣、行かれましたか。あ、そうですか。なるほど。ああ、まぁいろいろありますねぇ。はっはっは。ちょっと何言ってるかわかんないです。

ところで、例年初詣で賑わいを見せる神社と言えば、まぁ全国にいくつもあるのですが、東京だと、やはり明治神宮になるでしょうか。私は何年前かの春に一度だけ行ったことがあるのですが、いや、結構な佳境でしたよ。

渋谷区にある明治神宮。なぜ明治なのか。明治天皇(とその皇后)が祭られているからです。西暦1912年の崩御の折は京都に葬送されたとのですが、ときの東京市民が「明治天皇を東京で祭りたい」という希望を出したそうです。やがて1914年、皇后も崩御した折に、大正天皇が明治神宮の創建を裁可。1920年、晴れて創建となりました。



明治神宮 御社殿
出典:2018 Meiji Shrine.jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2018年10月)

足を踏み入れてみて驚きましたね。静かなんです。ざわざわと木々に囲まれ、砂利道をざくざくと歩く。もちろん観光客はそれなりにいたのですが、不思議とがやがやしていないというか、うるさくは感じなかったんですよね。いわゆる都会のど真ん中であったのに。



明治神宮付近の航空写真
出典:Meiji jingu yoyogi park 1989 air.jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:1989年)

上空から見るとわかるんですが、明治神宮というのは、森に囲まれています。森の中に明治神宮があると言ってもいい。東京のど真ん中になぜ、と思われるかもしれません。でもあの森は、東京だからこその森でもあるのです。

かの森は「永遠のもり」と呼ばれています。森を計画、設計したのは、林学者の本多静六をはじめとする国内の林学、造園に携わる人たちでした。ここにこういった木々を植えて、100年後にはこうなるんじゃないか。彼らは長期的な展望を以って森を設計しました。むろん、そこに結集した人々は誰も生きていないであろう遠い未来です。でも、そこに想いを馳せて造営された森。本多はその、やがて出来上がる森を「永遠の杜」と呼んだのです。

明治神宮が建立される前、あのあたりは森なんかない荒れ地だったそうです。さもありなんですね。江戸時代には、現代のように石油をエネルギー源にすることはなかったから、木材が大量に消費されました。だから明治の頃は禿げ山だらけだったそうです。意外に思われるかもしれませんが、日本の森林面積は明治と平成で比べると平成の方が多いのです。ともあれ、そんな時代でしたから、ここにこんな森が出来上がるんだ、という希望を、本多たちは明治神宮に託したんでしょうね。



明治神宮御苑
出典:Meiji-Shrine-Innergarden-02.jpg
from the Japanese Wikipedia
(撮影:2010年6月19日)

創建当時、全国から約10万本の木が献木されたそうです。現在、明治神宮の森にある木の数は4万本足らず。それは別に、誰かが不当に伐採したとかではありません。自然にそうなったんです。木は育ちます。その過程で、死にゆく木も当然ある。自然に数が調整されて、現在の形に落ち着いたのです。それはつまり、東京では森というのはこうなるんですよ、という具体例を示しているわけです。それが「永遠の杜」なのです。

明治神宮は「赤字知らずの神社」と呼ばれています。あれだけ観光客がいるわけだから、そりゃそうだろうなと思います。でもそれは、都心にあるから、アクセスがいいから、というのだけではないと愚考します。やはりあの森に囲まれているから、それが心地いいから、国内外からあれだけ人が集まってくるのではないでしょうか。実際に行ってみて、そんな気がします。なんか落ち着きますもん。

「永遠の杜」は人工林です。その気になれば、愛知でも大阪でも福岡でも造れないことはない。でも今の時代、100年という長期的展望で森なんか造られないでしょうね。投資したって回収できないじゃないか、アホらしい、という感じで。

でも、これから資源は枯渇に向かうし、人口は減少する。さまざまな未経験の難局を私たちは迎えるでしょう。その中で、明治神宮の例は「私たちが未来に何を残すのか」という問いへの答えを、あるいはそのヒントを、穏やかに示唆しているような気がするのですけれど。



※参考文献:
伊藤弥寿彦、佐藤岳彦『生命の森 明治神宮』講談社(2015年)
養老孟司『半分生きて、半分死んでいる』PHP新書(2018年)






 

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