前回、京都の「
祇園祭」を取り上げたが、実際のところ、祇園祭は日本各地にある。八坂神社と同じ祭神、スサノオ(牛頭天王とも言う)をまつる神社だけでも、全国に500以上あるのだ。だから千葉にお住まいの人なら、祇園祭と聞いて思い浮かべるのは、「成田祇園祭」のはずだし、福島の住人ならば「会津田島祇園祭」を脳裏に浮かべることだろう。
福岡人なら、きっとこう言うはずだ。「なんば言うとっとね。祇園祭んゆうたら、博多っ子のもんばい。博多の祇園祭んば一番たい」と。まぁ、あの有名な「どげんかせんといかん」も、実は宮崎県内でも鹿児島寄りの地方でしか使わない方言らしいから、同じ福岡県内でも方言はまちまちだろう。しかし眼目は方言ではなく、祇園祭のひとつ、「博多祇園山笠」である。
まっとちょって。祇園祭の博多版というのは何となしに分かるが、山笠って何? と思われるかもしれない。山笠とは、神輿や山車(だし)にあたる。もともとは、櫛田神社にまつられるスサノオに対して、町ごとに、この山笠の豪華絢爛を競って、無病息災を祈ったのが、こちらの祇園祭だという。そしてこの山笠こそ、「博多祇園山笠」のキモなのだ。
「博多祇園山笠」は、女人禁制の祭りとされ、山笠期間中はセックスもご法度らしい。それは取りも直さず、男子の精力を極限まで高める必要があるということ。これに対し、「男女平等に反する」「個人の人権侵害にあたる」などとクレームをつけるのは、行事の本質を理解できない蒙昧の所業であろう。
なぜそこまで男子に緊張状態を強いるのか。それは「博多祇園山笠」のキモが「追い山」だからだ。「追い山」とは何か。山笠を担ぐ(ご当地では担ぐことを「かく」と言う)男子たちによるレースである。「おっしょい! おっしょい!」と掛け声をあげながら、男たちが繰り広げる、大迫力のこのレースこそ、「博多祇園山笠」の目玉なのだ。
さて、実は長年、「博多祇園山笠」の山笠の人形衣装には、京都の西陣織が使われていた。京都の「祇園祭」が祇園祭の祖であることを考えれば、これは合点がいくが、福岡人は納得しなかった。とうとう21世紀に入り、「西陣織なんか使うとれんばい。博多っ子なら、地元の博多織でいかんと」となって、今では人形の衣装には博多織が使われている。
また、祭りの名前とは裏腹に、福岡市は何の関係もない。というのも、「博多祇園山笠」は、櫛田神社の氏子たちを中心とした奉納行事であり、いわば地域住人の伝統行事なのだ。これらを聞いて、お分かりのように、博多っ子男子の愛郷心とプライドが詰まった祭りなのである。